六話:ただのウサギはウサギを大量に殺す

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六話:ただのウサギはウサギを大量に殺す

「……どうしてこうなった」  私は数時間に及ぶ鍛錬により、心拍数の増加・減少を自由にとは言えないまでも、ある程度行えるようになっていた。  でも……。 「流石にこれは効果ありすぎじゃないかな」  私はウサギに懐かれていた。辺りを見回してみると、何羽いるのかわからないほどのウサギに囲まれているのがわかる。兎人族だからといって、ウサギに仲間意識があるわけではないから、狩れるなら狩りたい。  でも、流石に数が多い。まとめて殺せる手段を持ち合わせていないから、下手に刺激すると返り討ちに合う。丸ウサギなら攻撃を受けても大したダメージを受けないけど、角ウサギの攻撃は痛い。角による攻撃で、出血は免れない。  ここは、素直に引き下がる方が賢明な判断だろう。  でも、この数のウサギを狩れれば、お金がいっぱい手に入る。  なら、殺すしかない! 「さあ、ウサギ達! こちらに来なさい。いいものを見せてあげる!」  私は立ち上がり、ある場所に向かって走り出す。  後ろを振り返ると、ウサギ達はついて来ていた。  ……可愛い。  でも、これから君達は私に殺されるのだよ!  木漏れ日を浴びながら走る。木々の間を縫うように進み、そこまで一直線に向かう。  道中、更にウサギ達が増えて、かなりの数になった。 「溺れ死になさい!」  目的地に着いた私はそのまま落下した。私が落ちたのは湖。この湖には害の無い魚しかいないため、安心しながら落ちることが出来た。ウサギ達も後から湖に落ちる。  それを見計らって、私は湖から上がった。  でも、ウサギは泳げないため、岸には上がれない。  後は体力が尽きて、溺れ死ぬのを待つだけだ。  ……いくらぐらいになるのかな。  私は湖の中で必死になってもがくウサギを眺めながら思った。  確か、丸ウサギは一羽辺りの価値は50ガルド。角ウサギは100ガルドだったはず。  丸ウサギか角ウサギか判別するのは面倒だけど、ざっと見た感じ百羽近くいる。  低く見積もっても、5000ガルドになる。角ウサギの数次第ではあるけど、7、8000ぐらいにはなってくれると嬉しい。  そんなことを考えていると、ウサギ達はチラホラと死に始め、数分経った頃には全て死んでいた。 「ごめんね。本当はこんなことしたくはないの。でも、お金を稼がないとダメなの」  私は殺したことへの言い訳をしながら、ウサギ達を【道具袋】に収納していく。  やっぱり制限がないのか、ウサギ達は全て【道具袋】に収納出来た。本当に便利だ。  買おうとしたらどれぐらいお金がかかるんだろう。マスターに譲り受けることが出来て本当によかった。 「よし、帰ろう」  もうお昼時だ。今から帰って、昼ご飯を食べればいい時間になる。  私は湖に背を向けて歩き始めた。 この辺りの地形には詳しくはないけど、大体の位置は把握している。  この池は、いつも私がウサギを狩る場所から西方向に進んだ所にある。  ウサギの狩場は森に入って、東に進んだ場所にあるから、このまま西方向に進めば森から出ることができるはず。最悪道に迷っても、木に登って辺りを見渡せばいい。  私は軽い気持ちで、西方向に進む。  しばらく歩いていると、私の考えは正しかったようで、森の出口が見えてきた。  森を抜けると、真正面に【アルケー】が見え始めた。  私はアルケーに向かって歩き始める。辺りを見回せば、草原を跳ねながら進むスライムがいた。  スライムは半透明な体をしていて、物理攻撃が効きづらい。  それはスライムのプルプルした体が関係している。なので、スライムには負けることはないけど、スライムを倒すことも出来ない。まあ、スライムにそこまでの価値はないので、倒す意味はない。スライムから意識を離し、【アルケー】に向かって歩く。 「……ん?」  誰かがこちらに手を振っているのが見えた。大体の予想はつくけど、間違っていたら恥ずかしい。【アルケー】に近づくにつれて、その手を振っている人の姿がはっきりとしてくる。  やっぱり、ケニーさんだった。  私は手を振り返すと、ケニーさんはより大きく手を振ってくる。仕事はいいのかな?  ケニーさんは、門から入る人を検問するのが仕事の兵士だったはず。  今は誰もいないからいいけど、人がいるのに私に手を振るような行為をしたら、即解雇だろう。  私個人としては、辞めてほしくない。数少ない知り合いだからだ。 「こんにちは、ルーナちゃん。今日は早いね」  門に着くと、ケニーさんが話しかけてきた。 「ケニーさん、こんにちは。今日からゴルドスさんに修行をつけてもらうことになったの」 「えぇ!? あのゴルドスさんにっ!? 嘘でしょ!?」 「嘘じゃないよ」  ケニーさんの反応がわざとらしく見える。  でも、マスターは有名人だから、私みたいな弱い人に修行をつけるなんて思いもしなかったはず。 「ルーナちゃんは嘘つかないのを知っているからね。か〜、ゴルドスさんに修行をつけてもらえるなんて、羨ましい!」  羨望の眼差しを向けて来るケニーさん。  マスターは剣の達人でもあるから、剣を使うケニーさんにとって、憧れのようなものなのだろう。 「ケニーさんの分まで、修行をつけてもらうよ」 「く〜、言うね! でも、頑張ってね」 「うん。頑張る」  検問の必要がないのか、あっさりと門を通してもらった。ちゃんと仕事はしないとダメだよ、ケニーさん。街に入り、しばらく歩いてから、後ろを振り返る。やっぱりケニーさんはこちらに向かって手を振っていた。本当にいい人だ。  私はケニーさんと出会えて、本当によかった。  そんなことを思いながら、ケニーさんに手を振り返し、冒険者ギルドに向かった。
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