九話:ギルドマスターと師匠になる男

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九話:ギルドマスターと師匠になる男

~三人称視点~ 「……おっと」  アッシュグレーの髪色をした青年――カルロス・ヴァンアストレアは、気を失い倒れていく兎人族の少女を受け止めた。その少女を後ろで控えている二人の女に任せると、カルロスは目の前にいるゴツゴツした男――ゴルドスに話しかける。 「おい、ゴルドス。話が違うじゃねぇか。この兎人族、雑魚だから強くしてくれって話だったはずだろ?」 「ああ、その通りだ」 「なら、どうしてこいつは、俺に攻撃出来た? 油断していたのは認めるが、戦いの素人に攻撃されるほど弱くはない。こいつは一体何者だ?」  カルロスはゴルドスに問い詰めた。この兎人族は何者だと。  カルロスは自分のことを強いと自慢するような疚しい人間ではないが、それなりの強敵と渡り合って来た。  その成果が認められて、Sランク冒険者になった。  しかし、この兎人族の気配に気づかず、攻撃を許したのは事実だ。 「……言い方を変える。どこの暗殺者だ、こいつ」  カルロスは目を細めた。返答次第では殺すぞと、ゴルドスを脅している。  しかし、ゴルドスは『何を言っているのだ、こいつ』、みたいな顔をしていた。 「答えろ!」 「……熱くなっているとこ悪いが、ルーナはただの少女だ。半月前に冒険者に登録したばかりだ」 「嘘をつくな! あんただってこいつの気配、感じ取れなかったはずだ!」 「いや、そんなことないけど。普通に感知していたし、見えていた」 「話にならない。いつから嘘をつく男になった……ッ。……一応聞くが、お前らその兎人族の気配、感じ取れていたか」  後ろでルーナという兎人族の少女を、カルロスは指差して言った。カルロスの仲間であろう二人の女は、お互い顔を見合わせてから言う。 「普通に感じ取れていました」 「カルロス避けないから、わざと受けたのかと思った」  二人は嘘をつくような人間ではないことをカルロスは知っている。今まで、お互いの命を預けあっているからこそ、そう断言出来る。  それなら、何故カルロスは攻撃を受けてしまったのか。 「ルミア、本当に気配を感じられたのか?」 「はい。この子は気配を隠す気はなかったかのように感じます」  回復魔法を得意とし、ルーナを治療しているルミア・グレイブは言った。  ルミアはカルロスの従者だ。さらさらの金髪と青空の如く青い瞳が綺麗で、目鼻立ちは恐ろしいほどに整っている。また、白を基調としたローブを纏っている。 「ロア、お前は?」 「あたしもルミアと同感」  攻撃魔法を得意とするロア・アイギスも、ルミアの言っていることに賛同した。  ロアもまたカルロスの従者で、ルミアとは仲が良いようで悪いという、意味がわからない関係だ。闇夜の如く黒髪と血のように赤い瞳は人を魅了し、肌の艶がとてもいい。  ルミアは『何で女子力のかけらもないのに、肌が綺麗なの』とよく嘆いている。  そんなルミアとは対照的な黒を基調としたローブを着ている。後、右目に眼帯をつけている。ロア曰く、オシャレらしい。 「……そうか。なら、何で俺は……」  カルロスは深く考え始めた。  しかし、いくら考えても、その答えは出ない。 「そこまで深く考えても仕方ないぞ、カルロス。これからお前はルーナの師になるのだから。これから知っていくといい」 「深く考えるのは仕方ないだろ。だって、俺だけが気配に気づけなかった」 「ルーナは兎人族だ。ワシ達が知らないスキルを持っているかもしれない」 「もし、そうだったとしても。俺は負けた。本当の殺し合いなら、俺は死んでいる」 「……はぁ。お前は昔から頑固だな、全く」  ゴルドスはため息をついた。強くなっても、昔と何ら変わらないカルロスを見て、ゴルドスは懐かしさを思い出し苦笑を浮かべる。 「カルロス、ワシはルーナを寝かす寝床の準備をしてくる。しばらくしたら、二階に上がって来てくれ」  そう言い残し、ゴルドスは受付の奥に消えて行った。 「……そいつの具合はどうだ? ルミア」 「両腕は複雑骨折、頭蓋骨にもヒビが入っているわ。全身擦り傷だらけで、ここまで動けたことが不思議だわ」 「そうか」 「目覚めたら、謝ってあげるといいわ」 「ああ」  カルロスは力無く頷くと、近くのテーブル席に座った。  実際は同い年のはずだが、ここではルミアが年長者のように感じる。もっと言えば、女の子に傷を合わせた弟を諭す姉のようだ。 「……カッとなったとは言え、何で俺は攻撃してしまった? 俺は人を傷つけるために、強くなったわけじゃないのに」  そう、カルロスは自分のしたことに後悔するのだった。
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