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第5話 今夜うちに来て
訪問先の会社の会議室に廿日出と一緒に入ると、横川は大いに驚いた。それが顔や態度に出なかったかを考えると冷や汗をかく。
原因である男のほうをちらりと見ると、島はいつもの澄ました顔で廿日出に挨拶をしている。
本来ならば、このミーティングには担当の廿日出と宮内が出席するはずだった。しかし宮内が抱えている別のプロジェクトのトラブル対応のため出かけてしまった。横川はその代理である。
まさか自分がそんなことを任されるとは思っていなかったが、上司は「最近調子がよさそうだから。横川もこのプロジェクトのメンバーだから困らないだろう。廿日出のサポートをしてこい」と言った。
調子は確かにいい。
原因は絶対島だ。間違いない。
たっぷりと愛され、愛撫され、栄養バランスのいい食事をし、気持ちいい毛布にくるまって深く眠る。調子が悪いほうがおかしい、と横川が思うほどの生活をしている。そのせいか、横川はこれまでの少しおどおどした態度が減っていった。
元々仕事ができないわけではなかった。自信のなさや手際の悪さがそれを隠した。
今はメキメキとまではいかないが、よく全体を見ているのでサポートをしたり、気がついたことを発言してそれが取り上げられることが増えた。
相手の会社が島の勤務している会社なのは知っていた。しかしこのプロジェクトに関わっているとは知らなかった。
2人で過ごす時間は増えたが、仕事のことはあまり触れなかった。
今回は実質、廿日出のサポートである。島のことは気になるが、それならばますます格好悪いところを見せるわけにはいかない。
本当は指が震えそうなくらい緊張していたが、それを抑え込んでのミーティングが始まった。
結局のところ、廿日出一人でも全然問題がなさそうだったが廿日出は「心強いよ」と言ってくれた。
無事に打ち合わせも終わり、一息ついた感じになった。
不意に島が横川に近づいてきたかと思うと「トイレですか?」と言い始めた。
横川はそんなことを一言も言っていないので慌てて島を見た。
「近くのトイレは混むんですよ。ご案内しますね」
島は上司の許可を取り、横川と一緒に会議室から出た。
そして一番近いトイレを通り過ぎ、フロア奥のトイレに入ると島は横川の腕を掴み個室に押し込んだ。
「な、なに……んっ」
ぐいと抱きしめられ、薄い唇が重ねられると激しいリップ音を立てながら島にキスをされる。すぐに舌が入り込み、ものすごい勢いで口腔をひどい熱で犯される。
ひとしきり犯すと、先ほどまでの涼しい顔は微塵も残っていない欲の浮かんだ島が横川をじっと見つめていた。
「なんでこんなところにいるんですか」
「あ、いや、代理で」
「突然すぎて心臓が止まるかと思いました。あんな顔で仕事しているんですね」
「あ、あの……う」
またキスで口を塞がれる。
驚いたのは自分もだし、代理になった原因は島によくしてもらっているからだとお礼を言おうと思ったのに、島は静かに怒っているようだった。
「なに、怒ってるんですか」
「なに?だって驚くでしょう」
「それは俺も同じ……あ」
また乱暴にキスをされながら、島が前をいじり、かちゃかちゃと金属音がしているのが聞こえて、横川は身を硬くした。
「や、なに」
気がついたときにはベルトは外され、スラックスがずり下ろされていた。え、と思う暇もなく下着も下ろされ露わになった尻の谷間にひやりとしたものを感じた。
怖くて島に抱きつくと、島は横川の背中をなでながら濡れた指をつぷりと谷間の奥へと入れた。
「ひゅっ」
「ふふふ。まだ柔らかいね、横川さん」
「し……まさん?」
「一昨日したばかりだからかな。そろそろ僕の形を覚えてくれてるかな、って期待してる」
耳元で囁かれながら、指は抜き差しされる。妖しい声が出そうで横川は力を込めて島に抱きついた。
「力抜いて」
「なに」
ちらりと見えたミントグリーンに横川は身体をこわばらせた。島が横川によく見えるようにそれを目の前にかざす。
「それ」
「ワイヤレスだし、動かさないですよ。ただ入れるだけ」
「だけってっ!」
「しっ。あまり人が来ないけど全然来ないわけではないから。大きな声、出さないで」
「でも」
「好きでしょう、横川さん。声我慢するの」
「…………」
「心配ならリモコンも預けます。でもこれ、中に入れて」
「そんな。仕事」
「あと1時間半くらいでしょう。直帰?」
首を振る横川に島は溜息をつく。
「それなら仕方ないですね。もうちょっと頑張りましょうか」
「でも」
「仕事が終わったらそのままうちに来て」
「……ぁ」
「この不意打ち、本当に心臓に悪い。そして横川さんの仕事する姿、とってもセクシー」
「し…まさ……くぅっ」
耳元で囁かれる恥ずかしくなるようなことばに溶けていると、ミントグリーンのローターが島の長い指によって横川の体内に埋め込まれた。
「これ、いやです」
「いや?そんなことないでしょ。ずっと僕を感じながらこのあと過ごして」
「……あ…ん」
島は優しくキスをする。
「今夜はうちに来て、いろいろ教えて。いいね」
最後にもう一度キスをしたあと、島はトイレットペーパーで指についたローションを拭い、横川の下着とスラックスを上げると衣服を整え、ベルトも締めた。そして横川の上着の内ポケットにミントグリーンの小さなものを滑り込ませた。
「これがリモコン。自分でスイッチを入れないと動かないでしょう。安心して」
島を見る横川は溶け切った情けない顔で泣きそうだった。
「そんな顔しないで。そろそろ会議室に戻らないとまずいですよ。うちに来るまで我慢して」
「そんな」
「勝手に取らないでください。僕、横川さんが卵産むところ見たいな」
いつだったかやらされた、排卵するように力んでローターを排出したのを思い出し、横川はさっと顔を赤くした。
「かわいい顔しないで。我慢できなくなってしまうから」
「島さん」
「今夜うちに来て」
横川はうなずくしかなかった。それを見て島は満足そうに笑い、最後に軽いキスを横川にすると個室の鍵を開けた。
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