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第4話 僕に甘やかされるの、嫌い?
肌触りのいい毛布にくるまれ、横川は島の腕の中にいた。横川がもぞりと動くと島が顔を覗き込む。どう見ても島のほうが細身でユニセックスな雰囲気なので、誰かの腕の中にいるのは島のほうが似合う、と横川はいつも思っていた。
俺のほうが肩幅あるし、背は…ちょっと低いけどそう変わらないし、島さんのほうが見た目が華奢でかわいいし、俺、30になって世の中ではおっさん扱いだし。
そんな横川の思いとは裏腹に、上目遣いで島を見ることになった横川の顔を見ると、島はうっとりととても幸せそうに微笑んだ。
横川の誕生日前日の大胆な行動から恋人同士になった、というか、横川のあまりの腰に引けようにお試し期間を設けることで、島が妥協した。その代わり、その間は「恋人同士」として振る舞うので浮気厳禁から始まり、たくさんの決め事を島は提案した。しかしその多くが普通の友達づきあいでのマナー程度のことだったので、横川も反対はしなかった。
セックスのときは少しMっ気を刺激してほしい横川に対し、今夜も島は横川を自宅に連れ込むと自分で服を脱ぐように一つずつ指示し、つるりとした木製の椅子に座らせた。それから「ここでイケるようにしてあげますね」と両乳首にシャーベットピンクのローターを貼りつけスイッチを入れると、ソファに座りそれを正面から眺めていた。特に拘束はしなかったのに、横川は素直に指示に従い、ローターを外そうとはしなかった。
しばらくして次に足を座面に上げM開脚をさせると秘所をねっとりと舐め、舌を尖らせて奥を抉った。ペニスには触れてもらえず、恥ずかしいが舌では内側の気持ちいいところに届くはずもなく、横川は半泣きになりそうだった。
そして島が取り出したのはミントグリーンのローターで、ローションを塗り、先ほどまで舐めていた秘所に2つ埋め込み、静かに振動させた。
横川がどうしようもなくなって泣き出す頃、そのままの状態でベッドに上がらせ、フェラをさせた後、ようやく島は自分のペニスを横川に沈めた。島は横川の好むところばかり突いたり、触ったりしてやりぐちょぐちょに抱いた。
セックスの行為以外は、島はまめな男だった。
横川を自分が満足いくように世話がしたい、と大概は自分の部屋に連れてきた。そして横川を包むのにふさわしい毛布がいる、と新しい毛布とシーツを買った。
セックスの後、島は横川を風呂に入れた。シャワーでざっと洗い流し、丁寧に髪を洗いトリートメントもする。身体もふわふわの泡で手で洗い、さっぱりとしたハーブソルトを入れた湯船に浸からせた。
横川が遠慮して「もういい」と言うのに「僕のこと、きちんと好きになってもらわなくてはならないから」と、パジャマや部屋着、下着もそろえた。
大概は金曜日の夜には二人でセックスし、夜更けまでどろどろになっているのに、土曜日の朝9時には朝食が整えられていた。ロールパンとハムエッグのこともあったし、ご飯と味噌汁や厚切りトーストにたっぷりバター、中華がゆのこともあった。
横川が自分の部屋に帰って掃除や洗濯がしたい、と言えば、そこは止めなかったが、それが終わると島の部屋に帰ってきてほしい、と島が言うので素直にそうしていた。
ふと疲れたと思えば、飲み物が出てくるし、アイスクリームが出てくることもある。
二人で外出すれば完璧なエスコートをする。
横川は少し居心地が悪くなって、「やめてほしい」と言ったことがある。
「横川さん、僕にお世話されるの、嫌い?」
「いや、嫌い、っというか……、島さんも大変だろ。自分のことする時間なさそうだし」
「平日にたくさんありますよ」
「そう…」
「僕に甘やかされるの、嫌い?」
「いや、それは…」
正直に言えば、こんなに甘やかされたことはなかった。島の甘い言動や世話は横川を満たしていった。楽しそうに甲斐甲斐しく世話をする島に横川は何度か見とれたことがある。それに気づくと島はレジーナでは見せたことがないくらいの笑顔を横川に向ける。そうすると横川はへにゃへにゃになってしまい、それを見た島はまた笑うと抱きしめて優しくキスをするのだ。
「こんなに甘やかされたこと、なかったから」
「僕も初めてです。横川さんを甘やかせるのって幸せ」
「……」
「真っ赤になってうつむいて、かわいいですよ、横川さん」
「か、からかうのは止めてください、島さん」
島は腕に力を込めてぎゅっと横川を抱きしめた。
「あのね、横川さん」
耳元で囁かれるのは甘くエロティックな響きの中に真剣さが混じった島の声だった。
「SMって、MがSに従うからSのほうが上だと考えがちでしょう」
「はぁ」
「でも、MがいないとSはなにもできないんです。だからSはとても弱い」
「…島さん?」
「僕、横川さんがいてお世話してセックスして一緒に過ごせてとても幸せなんです」
「……」
「横川さんが僕のこと好きになってくれるよう、がんばりますね」
「あの」
「あと2週間と5日しかない。実は焦っているんです」
そんな会話をしてしまっては、横川はこれまで以上に島がやりたいようにさせていた。それどころか週末に掃除や洗濯をあまりしなくてもいいように、平日に済ませられるものは終わらせるように努力し、できるだけ島と一緒に過ごせる時間を長くした。
「明日、部屋に帰りますか?他に予定は?」
「大体、終わらせてきました」
出ていた横川の肩を毛布でくるみながら、島が聞いてきた。
「じゃあ、土曜日ずっと一緒にいられますね」
「はい、大丈夫です」
「ふふふ、嬉しいな。なにしましょうか」
「え……っと、特には」
「僕も……というか、ありすぎて頭がいっぱいで冷静に考えられません」
「え、島さんが?!」
「それくらいあなたに夢中なんですよ、横川さん」
ぎゅっと横川を抱きしめる。
「浮かれていて、そして不安なんだ」
「島…さん」
横川もおそるおそる島の背中に腕を回す。
「恥も外聞も投げ捨てて叫び出したいのを我慢しているんです」
そして島はほぅと溜息をついた。
「明日、横川さんがずっと僕と過ごしてくれるとわかって少し安心しました」
「俺、ちゃんといますから。明日のことは明日考えませんか」
「そうですね。朝はなにが食べたいですか」
「島さんは?」
「嫌いじゃなかったらフレンチトースト。実はもう仕込んであるんです」
「好き…かも」
「はちみつとシナモンをかけるのも好きでしょう」
「はい」
「本当に横川さんはかわいいですね。僕に甘えてくれてありがとうございます」
島はちゅっと横川の額にキスをして「じゃあ、寝ましょうか」と言った。横川は背中に回していた腕をはずし、島の頬を包むと唇にちゅううううっとキスをした。
「おやすみなさい」
横川は毛布に顔を埋めて目をきつく閉じた。島の顔が歪んだのは見えなかった。
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