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追い出された者どうし
狼少女は自分の状況を静かに語り出した。
「私は……産まれて来た時からこの姿。みんなは魔獣。だから……私は、みんなと……違う」
要約するとこうだった。
普通、魔獣の子供はみんな魔獣なのだが、ケイの目の前にいる狼少女は、文字通り産まれた時から人間に近い状態で産まれた。そのため、幼い頃から忌み嫌われ、貶され、そして、ある程度育ったから一族から迫害……つまりは追放されたのだ。それがつい3日前。
「そうか。俺と一緒だな」
いつの間にかケイの心には警戒心はなく、それどころか同じ境遇の者がここにもいたという驚きと微かな安心があった。
一方、ケイの言葉の意味が分からないのか、狼少女は頭に「?」と浮かばさながら首を傾ける。
「俺もな、みんなと一緒にこの世界に来て、使えないからってここに来たんだ」
「……そうなの?」
「あぁ、だからお前と一緒だな」
「……一緒……」
狼少女はケイと同じ境遇の者がいるのが余程嬉しかったのか、「一緒」と言う言葉にお尻から生えた尻尾が左右に微かに動く。
「じゃあな。またどこかで」
そう言い残してはケイは再び食べ物を探そうと立ち上がる。狼少女はケイになにか言いたそうだが、胸には手を当て、グッと開けた口を閉じる。
その様子をチラッと見ながら歩き始め、少し遠ざかった場所に着くと、早速気合を入れ直した。
「うっし! やるか!」
しばらく森を歩いていると、見つけたのはまたしてもホーンラビットだった。1度殺すことには成功しているので、今度はよりスマートに成功させようと背後に周り、蹴りを1発喰らわせようとした。がーーー。
「…………」
ケイのさらに後ろからガサゴソと草を嗅ぎ分けてくる音が聞こえてくる。その音にホーンラビットも気が付き、振り返ると、ケイと目が合った。
「しまっーーっ!」
ホーンラビットの全力ジャンプを間一髪でケイは体を右にずらして避ける。そのまま飛んで行ったホーンラビットは物音がした草に突っ込み、体全体に深い切り傷を付けて吹っ飛んでケイの足元に帰ってきた。
「って、なんでお前がここにいる?」
「……付いてきた」
「はぁ!?」
足元にいる瀕死のホーンラビットに、ケイは落ちている手頃な石で、頭を粉々に砕き、角の付け根をおる。角は左手に持ち、右手で小さな尻尾を掴み、逆さにして血抜きと同時に持ち帰ろうとする。
「……これは俺のだからな」
「私が……取った」
「最後にとどめを刺したのは俺なんだから俺のだ。てか、なんでここにいるんだ?」
「えっと……1人、寂しい」
一見、無表情に近いが手は少し怯えているのか軽く拳を握っている。お尻の付け根から生えた尻尾や頭の上にぴょこんと生えている獣耳もシュンと丸くなっている。振り絞ったのであろう声は震えていた。
「……だからどうした?」
ここまでこれば、ケイもだいたい察しは着いているが……あえて突き放す。ここで幾らか案を出しても、それは狼少女の意思ではなく、ケイが導いてやってるに過ぎないからだ。そして、狼少女に取って振り絞った答えがきっと1番したいことなのだ。
「何も無いならもう行く。今度こそじゃあな」
「あ……待って……」
「……なんだ?」
「一緒、一緒に居たい…です」
ケイの予想は的中していた。だが、それでも最後にどうするか決めるのはケイだ。そして、ケイも、もちろんーーー
「…………断る」
「なんっ……で?」
「それは俺は、俺を捨てた奴らに復讐すると決めたからだ。お前には関係のない」
そう言い捨てて、ケイはホーンラビットを持ち直し、洞窟へと向かった。
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