フェンリル

1/1

83人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ

フェンリル

 洞窟に入ると、ちょうどホーンラビットの丸焼きがちょうどいい火加減で焼きあがっていた。  ケイは火から離して大きな葉に乗せ、余熱で中に火が通るのを待つ間に、狼少女が守っていたが、結局ずぶ濡れになってるカッターシャツを干す。 「全く……これの何がいいんだか」 「あなたが…初めて……くれた物……」 「いやいや、出会って間もないだろ!?」  と、そんな会話をしている間にホーンラビットの肉が程よい感じに仕上ったので、座ってワイルドにかぶりつくーーー前に祈る。忘れてはいけない。今でこそわかる命の有難みを。 「では、いただきまーーー」  ぐ〜〜〜〜と、横から物凄く腹の虫が鳴る音がした。  ケイは虫の持ち主を見る、お腹を抑えながら、涎を口から垂らし、目がケイの持つホーンラビットから離さない。左右に振ると、顔も一緒に左右に振る。  まるで餌をやる前のお腹を空かした犬だ。……否、狼だ。 「…………欲しいのか」 「…………いら……ない」 「そうか」  ケイはホーンラビットをかぶりつこうとすると横で再び腹の虫がなく。食べたくても目線が気になり食べれないので、大きな葉っぱを半分に切り、その上にホーンラビットの肉を半分にちぎって置いた。 「いい……の?」 「要らないなら俺が食うぞ」 「それはダメ!」  狼少女は急いで口の中へ入れたため、頬張る。そして、ゆっくりと歯で噛み砕いていき、徐々にホーンラビットの肉の旨みを噛み締めていく。  時間が経つにつれて、だんだん噛む回数が少なくなり、最後にはゴクリっと肉を飲み込んだ。 「……美味しかった」 「そうか」 「……うん」  狼少女が全て食べ切ったのを見て、続いてケイが食べ始める。  毛皮を取り除き、骨と肉を焼いただけなので、味はしない。それどころか、獣臭さを感じる。ゴツゴツとしたい歯ごたえと無駄に多い小骨が口の中に広がる。そして、ゴクリと一気に飲み込む。だが、合わないのか、無理やり出てきそうな食べ物を気合いで押し込んだ。 「……っ! はぁ、はぁ……不味い……」 「まだ……残ってる」 「……いるか?」  ケイは、狼少女にホーンラビットの残りの肉を全部やった。狼少女は味わうように食べている。狼少女が幸せそうに食べているのを眺めていると、ケイの体が急に熱くなりだした。  それは自分が初めてホーンラビットを食べ時に似ているが直ぐに収まった。この現象が意味していることがケイには直ぐにわかった。 「きたきたきた。待ってたぜ!」  首に常に掛けているプレートを確認する。称号は変わっていないが、技能には『捕食(小)』追加されていた。鑑定眼で調べて見るが、何もわからない。  ふと、狼少女が気になり、鑑定眼で調べて見るとーーー  名前 ???  種族 フェンリル(人狼種)  称号 『魔族の嫌われ者』『魔族の迫害者』  技能 『空爪』『悪食』『気配察知』  だった。 「なるほど……フェンリルな……」  狼少女は驚いたのか、ビクッと体を震わせる。そして、シュンと尻尾や耳を丸くさせて隠す。そのまま徐々にケイに近づき、ズボンを掴み取る。 「おね……がい。捨てない……で」  言葉を吐くと同時にズボンを掴む力が強くなる。そして、ポロポロと涙が出始めた。そのまま何度も、何度も同じセリフを吐き、仕舞いにはケイに抱きつく。 「お願い!!」  この声が洞窟の中で響く。祈りが届くようにと。 「あぁ〜! もう、わかったよ! わかったから離れろ!」  そして、狼少女の祈りは届いた。ケイの言葉に安心したのか、狼少女はズボンから手を離し、上半身に力一杯に抱きつく。 「だぁ〜!もう、離れろ!」 「いや!」  現在、ケイは上半身が、狼少女は全身が裸なので、色々と当たってしまう。特に狼少女はロリ型に近い癖に出るところしっかりと出ていて、柔らかな双丘が弾力を弾ませる。 「これは……やばい。……なぁ、どうやったら離れてくれる?」 「……離したくない」 「頼む、とりあえず離してくれ」 「……じゃあ、名前」 「あ? 名前がどうした?」 「……名前が欲しい」
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加