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親玉の実力
ホワイトトロルコングの背中から逃げ出したはずのホワイトモンキーズの最後の1匹が出てきた。
「……ケイ」
「なんだ?」
「……最後の1匹、食べてたい」
「……」
ユイの発言に呆れを感じつつも、ケイはホワイトトロルコングの警戒を続ける。両者が動かない。ただただ睨み合ってるだけだが、しっかりと頭の中で戦略を立てる。
この局面では、先に動いた方が負けると直感が語って来たが、先にホワイトトロルコングが動き出した。
「グォオオオオ!!!」
ホワイトトロルコングが背負ってきたホワイトモンキーズの頭を掴み、ケイに向かって投げた。「キィイイイイ!!」という声を鳴きながら、涙と鼻水で顔面をむちゃくちゃなホワイトモンキーズ最後の1匹を、ユイが『空爪』で縦真っ二つに切り裂き、ケイの両側を過ぎ通る。
「……なんか可哀想だった……ユイ、助かった」
「……ん、ケイ、頑張って」
「いやいや、手伝ってね?」
慎ましい会話をしていると、ホワイトトロルコングが速攻で攻めてきた。
ユイとの会話をし終わった時には、ケイの目の前まで来ており、殴り掛かろうとしていた。ケイは『威嚇(中)』を使い、ホワイトトロルコングの動きを止めた。
「あっぶねぇ……ッ!?」
「グォオオオオ!!!」
確かに発動したはずの威嚇(中)が、ホワイトトロルコングの叫び声で破れたのか、まだ3秒も経っていないのに動き出した。
そして、右拳で殴りかかって来たホワイトトロルコングの一撃を紙一重でケイは躱す。
ホワイトトロルコングのパンチのスピードは速く、重い。だからなのか、ギリギリで躱したはずのケイの頬に微かに切り傷が出来ている。
「……」
危険だと思ったケイは、思いっきり後ろに退き、ユイと連携を取ろうとチラリとユイを見ると──
ムシャムシャムシャムシャ。
一切被害が及ばない離れた場所で、最後のホワイトモンキーズの右半分を食べていた。
「?……ケイ、どうかした?」
「いやいやいや! 手伝えよ!」
「ダメ……食事中」
よくよく見ると内蔵や骨、脳みそなど食べれそうにないものまで全て食べていた。
──モグモグモグ、ムシャムシャと。
その間に、ホワイトトロルコングは魔法を発動していた。地面には赤い魔法園が出来上がっており、手を伸ばしてホワイトモンキーズが使っていた火球の約100倍はあるであろう巨大な火球を作り出していた。
「おいおいおい! いくらなんでもヤバすぎるだろ!」
ケイは『威嚇(中)』で魔法をキャンセル使用と試みるがら距離が遠いため、ホワイトトロルコングまでは効かなかった。
次の瞬間、火球が放たれた。咄嗟にケイは、すぐさま湖に入り、なんとか避ける。放ち終わった後、ホワイトトロルコングは胸を叩き、ゴリラのように威嚇をし、雄叫びを上げる。
「……あ、バレた」
こっそりと湖から顔を出して様子を見ていると、ホワイトトロルコングと目が合ってしまった。
「……グォオオオオ!!」
叫び終わると、ホワイトトロルコングは胸いっぱいに息を思いっきり吸って、そして吐き出した。
その瞬間、見えない何かが飛んできたのか、ケイの後ろにそびえ立つ大木に巨大な穴が出来た。そこから煙が上がっており、焼き焦げた跡がある。
「マジかよ……すぐに潜って良かった……」
飛んできたとは、ホワイトトロルコングの吐いた息だった。ケイが生きていることがわかると、ホワイトトロルコングはもう一度、息を吸い、吐き出そうとした。
──が、それは無謀に終わった。吐き出そうした瞬間にホワイトトロルコングの胸に深い傷が3本出来た。
「遅いぞ」
「……ん、お待たせ……ご馳走様でした」
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