口移し

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口移し

「……これは?」 「勇者の力が込められた玉よ。いいから飲みなさい」  ユイは言われた通り、赤い玉を飲み込む。すると、全身から魔物特有の淡く光る青い線がユイの隅々まで渡る。そして、どこから湧いたのか、青い雷のような電気がユイを囲い込むように流れる。 「うっ……あ、あ、ぁぁぁあ!……ぐっ……ぐぁぁぁぁあ!!」 「ユイ! しっかりして!」  ユイは痛さのあまり頭を抱え込んだ。ユイの母親は、自分の愛娘の苦しんでいる姿に、見ているだけしかた出来ない。  励ましの言葉は言えるが、変わり身になることが出来ないことに堪らず悔しく、奥歯を力一杯に噛み締めることが精一杯だった。 「ユイ!」  その言葉を発した時には、頭を抱えながら地面に倒れ込んだ。さらに苦しくなったのか、周りの電気は激しさを増し、苦しむ声は刻々と酷く、醜くなっていく。 「うっ……あ……あぁ!!……うぁぁぁぁぁあ!!! マ、マァマ!! い、い、いたぃよぉ……!! あ、あああああ!!!……た、助け……て……ケ……ィ」 「しっかりして!」  ユイは母を呼ぶが、何も出来ないユイの母親は、愛娘が治ることを祈るしかなかった。  ユイが苦しむ数分前、ケイとユイの父親は決着がつかないまま戦っていた。  おかげで木が喪げ、土がボコボコになり、草は無くなるまで激しい攻防が成す戦闘が行われ、お互いにあちこち傷ができ、ボロボロになるまで競い合っていた。 「はぁ、はぁ……や、やるな」 「はぁ……はぁ……に、人間風情が! だが、これで最後だ!」  ユイの父親が体中から青い光を発し、その光を口内に集める。口の中に徐々にエネルギーと成って収束させられていき、大きな玉が出来た。 「これで終わりだ、人間! 消え去れ!」  ユイの父親の口から青く光る玉は一直線に放たれた。だが、ケイは目の前にいる敵に見向きもせずに、ひらりと右に避ける。  ユイの父親が放った光線は、ケイの背中を通り過ぎた。ユイの父親が、この技を繰り出されるのにほんの3秒。その間にケイは確かに聞いたのだ。ユイが叫ぶ声を……。 「……ユイ」  ケイは、ユイが叫ぶ元へと走った。何よりも速く、誰よりも速く。それはあらるゆ物を置き去りにして走った。周りを囲っていたフェンリル達の間を、認識すらさせずに駆け抜けた。  何よりも、誰よりも大切なパートナーのために……。 「ユイ!」  それでも激しい戦闘で、場所が随分と離れてしまったため、苦しんでいるユイの元につくのに5分もかかってしまった。  ケイが着いた頃には、ユイは憔悴しきっており、声は掠れ、呼吸は荒く、所々に元の一部に戻ったしており、ぐちゃぐちゃだった。 「あ、あ、ぁぁぁぁぁあ!!」  未だに周りの電気は途切れず、ユイの周りを囲い込むように流れ出ている。目がもう虚ろになっており、口からは涎が垂れている。  ケイはユイを触ろうとすると、それを制止させようとする声がかかった。 「その子に触れないで。今、戦ってるわ!」 「…………」  ユイの母親は、目の前に現れたケイに最重要警戒の威嚇をし、動きを止めようとした。だが── 「……黙ってろ!」  ケイはユイの母親をギロっと睨め返した。ユイの母親は、そのプレッシャーに耐えきれなかった。何よりケイの持つ怒りと赤い目が、ユイの母親の威嚇を逆に押し返し、返り討ちに会うように体を震えさせた。  それの意味は、今、この場で1番強いのはケイだということだった。 「……わ、私が恐れるなんて……」 「……黙って見てろ」  ケイはユイが放つ電気のサークルを無視して触る。電気がボロボロのケイの傷に響くが今のケイにはあまり感じなかった。ケイはユイの肩を揺らして、声をかける。 「起きろ、ユイ!」 「…………ケ……ィ?」  この時には、ユイは一言ぐらいしか話せる力がなく、体は動かないままでいた。水を飲ませようとしても、容器が電気に触れた途端、破裂した。 「ちっ……めんどくさい。本当に、世話のやけるやつだ」 「な、何をする気!?」  ケイは服の内側に隠してあった最後の小さな容器の中にある湖の水を口の中に含む。そして、全身でユイを抱き抱える。そのまま、顔を近づけてユイの唇に、ケイ自身の唇を当てた。 (起きろ、起きろ、起きろ、起きろ、起きろ……頼む、起きてくれ!────ユイ!)  舌をねっとりと絡ませて、口移しで渡った湖の水は、ケイからユイへと伝わり、そのまま流れるように喉を通った。
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