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届いた思いと最後の挨拶
ねっとりと舌を絡ませるようにキスをして、ケイはユイの口の中に湖の水をいる。飲んだのを確認し、離れると、ユイを囲っていた電気のサークルは徐々に電力を弱め、次第に消えた。
ユイの顔色もすっかりと戻っており、元に戻ったと言ってもいいほど回復している。
だが──、
「……? なぜ、起きない?」
「お前……私の娘に何をしたぁぁぁぁぁあ!?」
ユイの母親は、あの日、ケイにトラウマを植え付けた威嚇以上の殺意と怒りをぶつける。だが、今となってはケイはもうあのような恐怖は感じなくなっており、怒り狂うユイの母親を無視する。
「……ここが悪いのか?」
ケイはユイを覗き込むように顔を近づけると、突然、頭を捕まえられ、前に押し倒された。
ケイの顔はユイの顔に急接近し、再び唇と唇が触れた。
「!?……ん!? ユイ、てめぇ、起きて──」
何をされたか理解が追いつき、離れようと、身を起こそうとするとユイの強烈な力で引き戻され、再び唇と唇が当たる。
「……ん、ダメッ!……ハァ、ハァッ……ケィ……んッ♡」
今度はユイから舌を絡ませていく。応急処置ではなく、自ら求めて。ユイの顔は既にとろんっとしており、尻尾は舌が絡む度に艶めかしく、ゆっくりと振る。
ケイは何度も無理やり剥がれようと力を入れるが、勇者の力を完全に取り込んだユイの前では象に挑む蟻に等しかった。
「ユ、ユイ?……これは……あらあらあら〜」
傍ら、ユイの母親は目の前で見せつけられる行為に、さっきまで怒り狂っていたことを忘れ、横でニヤニヤと見守っている。
一方、ユイはケイが離れようと体勢をずらし、口が離れる度に、ねっとりと絡み合って出来た唾液を辿って何度も、何度も、何度もケイの元へと駆け寄る。
「んっ……ぅ……ハァッ……んむぅ……♡」
「ングッ!……ンンッ! こ、っの……ンンン!?……この野郎……」
ケイはくだらないことで使いたくはなかった技能『威嚇(大)』と『怪力(中)』を使って、ユイの動きを止め、襟首を掴んで、放り投げることで、激しく舌と舌が絡み合うキスの終わりを迎えた。
「ハァッ、ハァッ……ケ、ケイ……ようやく、ようやく出来た」
ユイはさっきまでケイと繋がり、口元に付着した唾液をペロッと舐めるように舌を動かした。それを見たケイは若干の後悔と寒気を感じた。
ケイは袖でベトベトについてある口元の唾液を無理やり拭うと、ピシッと気持ちを切り替えて、立ってユイの元へと駆け寄る。
「はぁ……ったく、ほら、行くぞ。迎えに来たんだ。こんなことするために来たんじゃねぇ」
「……ん、続きは後ってことだね」
「違うからな!? ほら、挨拶はいいのか?」
「……ママ」
ユイは母親の元へとタッタッタッと駆け寄り、再び抱きつく。
「ユイ……」
「……ママ。今までありがとう」
「ユイ……。ママは安心だわ。しっかりと番を見つけた来たのね。いい? 何があっても裏切っちゃダメよ!?」
「番!? ちょっと待てぇ!」
「……うん、頑張る!」
「人の話を聞けぇぇぇえ!」
両腕でガッツポーズを決めるユイに、母親は優しく、そして、悲しみの眼差しでユイを見る。
そして、ユイの母親は思い出したようにハッとし、どこから出したのか肩にかけるバッグを出した。
「これを。きっと役立つはずだわ」
「……ママ!」
再び抱き合った。最後だからなのかさっきよりも2倍程長い時間をかけて。
「さぁ、いってらしゃい。気をつけて」
「……ん、ありがとう。ママ」
ユイの母親は、しっかりとユイを見つめると次はケイを見た。
「ユイを頼んだわよ」
「言われなくてもわかってる。行くぞ、ユイ」
ユイは母親の元へと離れ、ケイのもとへと駆け寄る。
こうして、ユイとユイの母親の最後の挨拶は終わった。
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