朝ごはん

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朝ごはん

 しかし、人間は直ぐに忘れる。人とはそういう生き物だ。例外はいくつかあるが、大抵は皆同じだ。  もちろん、蛍もその1人なのだが、自分に誓い、『邪魔する者は殺す』という原則は、周りの環境が、常に命を狙ってくる数多の魔物が、蛍の心をすり減らし壊していく中で繰り返され、忘れるどころか染み込んでいった。 「……今日で4日目か」  失禁……いや、例の魔物に出会って逃げてから4日経った。さらに奥の道に進むと、2、3m程のの大きな断層があり、その側面に亀裂によって出来た小さな洞窟を発見した。洞窟といっても縦に1m、奥に2、3mぐらいの小さな穴だ。現在、蛍はそこを拠点に活動している。  ……と、言っても引きこもってばっかりで、外に出るのは薪を取りに行くことだけだった。 「今日も泥水だけか……腹が減ったな」  いきなり放り出されたため、何も持っていない。出来るのは、ゲームや漫画などで学んだ火の起こし方程度だった。  だが、数日雨が降ったのか、あたりが湿っているせいで時間はかかる。おまけに泥水のせいで腹を下し、数時間に1度は藻掻き苦しんだリもしている。 「そろそろ何か食べないと……本気でやばいな」  朝日が昇り始めたせいか、辺りが徐々に明るくなっていき、温度が上昇して行く。冷えた空気が一気に上昇するので、葉っぱや花の花弁に水滴が溜まる。この水滴を啜ることが、蛍のまともな食事。朝ご飯だ、 「……さて、殺るか」  今日、初めて魔物を狩るので気合を入れる。少しぶらぶら歩くと1匹の角の生えた兎もときに出くわした。  緊張のせいか手足が震えるが、どうにか1歩ずつつ気配を隠して進む。近くに手頃な石があったので、掴んで投げようとした。その瞬間、兎もどきが方向をクルッ変えた。そして、蛍が見つかった。 「うっ、うわぁぁぁあ!! よ、寄るな!」  思わず叫んでしまった。見た目が気持ち悪かったのだ。口の周りには赤い血、ドリルのような角が生えているのは、遠くから見ても分かった。  が、実は前方に棘のように枝状で分散しており、目は禍々しいまでの赤色。そして、何より恐ろしいのは、同族であろう他の兎もどきを食べていたことだった。  
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