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「獅子内さん!」
モスグリーンのポロシャツの男の人が立っていた。ネクタイが風に吹かれてる。
二十代後半。ニコニコ、何事もなかったように笑ってる。だけど目つきって鋭い。
「ありがとうございます。
でも、もう大阪帰ったんじゃ・・・」
「まだ新幹線には時間があってね。ぼくの直感がここに連れてきたってわけさ」
ネクタイを手でもてあそんでる。
「忘れちゃいけない。これでも警視庁と大阪府警の民間捜査協力員だぜ」
「健ちゃん。この人はね。『令和日報』の獅子内記者。知ってるでしょ」
そうだ。よくテレビのワイドショーにコメンテーターで出演してる。
「今日、大阪特捜地検のお母さんのことで、娘のわたしに取材に来てたの。
いま、大阪本社に応援に入ってるって!
なんといっても『令和日報』の看板記者だから」
麻衣ちゃんったら、ステキな王子様見るような目。
ぼく、横目で見てる・・・複雑‼︎
「ハハハ。真実ってのは、時に照れ臭いものサ。
ぼくも大黒検事のステキなお嬢様に出会えて光栄の至り。
大黒麻衣さん。また会いましょう」
獅子内記者って白い歯を見せてニッコリ笑い、サッと手を振って背中を向けた。
ネクタイが風になびく。
「じゃあ」
そのとき、ぼく気がついた。地面に落ちてる新幹線指定席のチケット。
大阪行き。昨日の午後三時半・・・
使われなかった昨日の大阪行きのチケット・・・
ここから導かれる結論って・・・
なーんだ!
帰りの切符の日付間違えちゃったんだ。だけど看板記者が自由席で帰るのもプライドが許さなくてひとまず戻ってきたんだ。
もしかしたら麻衣ちゃんに、もう一度会えればいいなって考えて・・・
きっと取材のとき、麻衣ちゃんってさ。
途中で落ち合って、ぼくと一緒に帰るって言ったんだ。
ぼくが手にしたチケット。獅子内さん気がついたみたい。
こわい顔してひったくり、麻衣ちゃんには満面の笑顔見せて立ち去った。
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