96人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、この地上にある、いくつかの価値あるものが…まさしくそうであったように。
奇蹟のような、その美しさのゆえに…その宝珠…いえ、『月光珠』もまた、幾人もの手にわたり、幾つもの物語を生み出すこととなったのでした。
それを手にしたひとが居て…そして、手に入れられなかったひとが居たでしょう。
それを手に入れたがために、幸福になり得たひとが居て…また、それを手にしてしまったがために、不幸を得ていたひとも、また居たとも聞き及びます。
『月光珠』…。
はたしてそれとは、幸福のしるしであったのでしょうか?
それとも、不運をもたらす、災いの象徴であったのでしょうか…?
そのことは…そう、あなただけが、知ることが出来るのです。
それでは、これより…物語をはじめることに致しましょう。
あなたにおかれては、どうか、このままに…そのこころの耳を傾けていて頂きたいのです。
今まさに、この本を開いているあなただけに…『月光珠』は、伝えてくれることでしょう。
ささやかな吐息のような、いくつかの物語を…そう、言葉ではなく、音ではなく…その光のまたたきをもって…。
いえ、ご心配には及びません。
幾百幾千もの夜にわたり紡がれたとされる、あのシェヘラザード姫のそれに比べるのならば…それらとは、刹那のまぼろしのように、ささやかな物語たちでありますがゆえ。
え?
私が誰か…と?
そのようにおたずねになるのですか…?
そのことは…今はまだ、どうか、ご容赦を頂けますでしょうか?…?
そして…そのようなことよりも…今はいざ、お出かけ下さいませ。
時間と空間とをさかのぼる、はるかな旅への入口は…あなたの目の前に、すでに開かれているのですから…♪
最初のコメントを投稿しよう!