episode III

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その実をひいて、こねて、焼いたのなら…たちどころにパンになり、人々のお腹を満たしてくれるのです。 その葉を干して、そして、すり潰したのなら…その汁は薬となり、子供たちのすり傷を癒してくれるでしょう。 その固い枝は、畑を耕す道具となり、家族に収穫を与えてくれるでしょう。 あるいは、兵士の持つ棍棒となり、槍となり、盾となり、馬具となって…敵国の侵略から、この国を守る力ともなるでしょう。 そして、その頑丈な幹は、テーブルやら、ベットやら…さらには一軒の家へと形を変えて、家族の暮らしを守り、豊かなものとしてくれるのでしょう。 そうしてやがて、それぞれの役目を終えた、そののちには…暖炉にくべられる薪となって…凍てつくような冬の一日に、人々を暖めてくれることでしょう…。 オークの樹。 すなわち…樫の樹。 それとは、精霊の宿る聖なる樹であるとともに…村の人々の暮らしには、欠かすことの出来ないものにほかなりませんでした。 すべての作物の収穫の終わる…この11月。 この村のひとびとにとり、一年中で最高のたのしみでもある樫の樹の例祭は、この村でもっとも大きく、もっとも古い一本のオークをぐるりと囲む広場で、まさに今、にぎやかに行われているのでした。 そう…去年のように、その前の年のように、あるいはもっともっと昔の年にも、きっとそうであったのと同じように。 調子の外れた笛と琴の音色、拍子の乱れた鼓の音…その上に、酔っ払った村人たちの、笑い声やらわめき声やら…そして、おせじにも上手いとは言えない歌声やら…それらのにぎわいが、秋の乾いた風に混じり合い、普段は静かなこの『モリグの泉』のほとりの空気をも、ざわざわと浮つかせています。 うっそうとしたオークの森に囲まれた、この泉のほとりは…テムテルとエンリックのお気に入りの場所でした。
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