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第一章
私が初めて彼女と出会ったのは、敬愛する先生の研究室でのことだった。いつものように研究室に入ると、見知らぬ若い女性がいたのだ。
なにぶん女性の少ない、いや、それどころか人の少ない環境であったので、振り向いた彼女と目が合った時、私は少々狼狽えてしまった。私自身が人見知りだったからというのもあるだろう。
そんな私に対して、彼女はにっこりと微笑んで名乗り、父がいつも御世話になっております、と頭を下げた。それでようやく私は、目の前のこの女性が先生の御息女だということを理解したのである。
先生が結婚していて、しかも私とさほど歳の変わらない娘までいるというのは、当時の私にとってはかなり意外だった。研究以外にはまるで興味が無さそうに見える、浮世離れした雰囲気を持つ先生と、男女交際や家庭といったものがあまり結びつかなかったのだ。
こんなことを言ってはなんだが、あれだけ昼夜を問わず研究に費やしている生活で、よく家族との関係が良好に保てたものだと思う。
同じ研究者の私から見てすらそう思えるほどに、先生は自らの研究に全てを捧げていた。
だからこそ、その研究が世間ばかりか同分野の研究者達の多くからも認められないことは、彼の精神にとって大きな負担となっていたのだろう。
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