第三章

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第三章

 最初に顔を合わせたあの日以後、彼女はしばしば先生の研究室を訪れ、ちょっとした手伝いをするようになった。  彼女は本来、別の研究テーマを持っていたとのことだったが、先生の研究室から人が去るに連れて、それを補おうとするかのように彼女がやって来る頻度は増えていった。  そして最終的には、私と彼女が二人で先生の助手を務めるようなかたちになったのである。  幼い頃から先生の薫陶を受けてきたのであろう彼女は優秀な研究者だったが、三人でできることには限りがあった。  やがて先生は、タイムマシンを完成させられぬまま、失意のうちに倒れた。長年にわたる無理のある生活と精神的な負荷が、彼の体を蝕んでいたのだろう。まだ五十代半ばの、早すぎる死だった。  先生の告別式が終わり、霧雨の降る中帰ろうとしていた時、背後から腕を掴まれた。振り返ると、彼女が傘もささずに立っていた。どうやら、会場から追いかけてきたらしい。  先ほど、会場を出る際に挨拶したばかりだったので、私は戸惑った。そんな私の目を、どこか怒ったような顔で真っ直ぐに見据えながら、彼女は問うた。 「こんなところで、終わりになんてしないよね?」  タイムマシンの話をしているということは、言われずとも分かった。  彼女の問いに対して、私は無言で(うなず)いて見せた。もちろん、私の方とて、こんなところで終わりになどするつもりは無かった。  もっとも、仮に私が先生の死を機にタイムマシンの開発から手を引くつもりだったとしても、この場ではそんなことは言えなかっただろう。彼女の声と表情には、それだけの気迫があった。  しかし結局、先に心が折れてしまったのは彼女の方だった。激しく燃える炎の方が、早くに燃え尽きてしまうということなのかもしれない。
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