3人が本棚に入れています
本棚に追加
第五章
タイムマシンが完成した日、私はすぐにそれを彼女に知らせようとし、しかし途中で思いとどまった。
理論上はこれで過去にも未来にも飛べるとはいえ、まだそれを人間を使って確かめたわけではない。
もし完成したというのが単なる私の思い込みで、実際には失敗していた場合、彼女をぬか喜びさせてしまうことになる。いったん持ち上げられた後で落とされることに、精神的に不安定な今の彼女が果たして耐えられるだろうか。
――まずは自分で使ってみてからだ。彼女に知らせるのは、その後の方が良い。
私は、そう考えた。
そうなると次にするべきことは、このタイムマシンを使って跳ぶ先の選定である。過去と未来のどちらに跳ぶかと、今からどのくらい離れた時間に跳ぶか、だ。
後者については、簡単に結論が出た。
現在からあまり離れた時代に行くのは駄目だ。
なにしろこのタイムマシンは、完成したばかりの代物である。一回のタイムトラベルには成功しても、その時の負荷で故障してしまわないとも限らない。だが、修理に必要になるかもしれない道具や部品を全ていっしょに持って行くことなどできはしない。
行った先が遠い過去だと、修理に必要な部品や道具が存在しないため、そのまま現代に戻ってこられなくなる危険性があった。
未来であれば、タイムマシンが故障しても修理ができる可能性はまだありそうだが、それだって確かな話ではない。なにしろ、未来というのは未知なのだ。極端な話、百年後の未来に飛んでそこが世界大戦の真っ只中だったら、到着した直後に殺されるということも有り得るのだ。
そうなると、行き先として適切なのは、「少し前」か「少し先」のいずれかとなる。
私は逡巡した末、「少し前」を選んだ。
理由は二つある。
一つは、たとえ「少し先」に過ぎなくとも、未来というのはやはり未知であるという点だ。さすがに明日明後日に世界大戦が始まるとは考えづらいが、火事とかテロとか、そういったことが起こらぬとも限らない。
もう一つは、「少し先」に行った場合、自分が実際にタイムトラベルをしたのだという確証を持つのが難しそうだと思ったからだ。
たとえば二日後に飛んだ場合、自分が単に二日間気を失っていたり、二日分の記憶を失ったりしたわけではないと、果たして言い切れるだろうか。
過去に行く場合であれば、そのようなことに悩む必要は無い。
そう考えた私は、行き先を二日前に設定して、タイムマシンを発動させた。
結論から言えば、私は、二日前には行けなかった。
最初のコメントを投稿しよう!