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「セラ様!」  名を呼ばれ、簡素な白い長衣を纏った人影が立ち止まる。腕に提げた籠から山葡萄がこぼれ落ちないよう注意しながら振り返った。  整った顔立ちと細い四肢からは性別を判別し難い。僅かに膨らむ胸元が、成長途中の少女である事を示していた。  十代半ばの少女は、足首まで届く長さの白銀髪を払い退けて紫の双眸を向ける。声を掛けて来た壮年の男が、とある方向を指さしてがなり立てた。 「こいつが俺の指示を聞かずに山仕事をさぼるんだ。セラ様、“契約者”の御力で死の罰を!」  示された先に立っていたのは、セラの十倍近い身長を持つ大男だった。裾が擦り切れた粗末な衣服に身を包んだ巨人は、大きな黒眼でセラ達を睨み下ろす。歯を剥き出しにして唸られて、男は「ひっ!」と情けない悲鳴を上げてセラの背後へ隠れた。セラは無言のまま大男の視線を受け止めた。 「・・・・・・ちっ」  憎々しげな舌打ちを残して、巨人が踵を返す。地震と勘違いしそうな地響きと共に、山へ歩いて行く。 「ふん、“契約者”がいる限り、お前達巨人族が逆らえる訳がないんだよ!」  セラの背後から姿を現した男が、腰に手を当てて嘲笑う。巨大な生き物が己の命令に従うさまがおかしくてたまらないのか、笑い声は止まない。  男から、巨人から逃げる様に、セラは足早に神殿の入り口を潜った。
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