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どれくらいの時間が過ぎただろうか。
いつのまにか明るかった空は薄暗くなり、風が強くなってきた。塔の下も目で確認することは出来ない。
下りるべきか。下りるならば、上ってきたあの道を再び戻るのだろうか。
また、あの暗い闇に伸びる階段をおちなければならないのか。
既に目が闇に慣れてしまうほどの時間が経過していたが、上を目指すのと下に降りるのとは別であった。
とうとう空に闇が満ちた。月がまだ輝きを得ていないこの時、夜空を照らすのは星たちであった。
大小様々な大きさの星たち
色合いが違うもの
粉の様に細かいもの
大きく輝くもの
小さいが遠くまで届く光を持つもの
数えきれないほどの数を「星の数ほど」と例える時があるが、まさにそれであった。
星の数は数えるのを途中で諦めるくらいたくさんある。それと同じ分だけ、大きさも形も色も輝きも違うのだ。
命も、きっとそうなのだろう。
「死んだものは空へあがって星になる」
どこかの世界でそう言った人がいた。死ねば星になると。そして、生きた分の命の輝きを持って空で輝き続けるのだと。
この世界では違った。
「星と命は同じものである」とこの世界では言われる。
誰かが生まれた瞬間に一つの星が生まれる。
誰かが死ねば星も死ぬ。
誰かの命が尽きれば一つの星の輝きも尽きる。
星の輝きは誰かが生きている証なのだと。
そして、誰かと誰かの繋がりは星座となって空で新たな物語を奏でる。
親は子にこの話を聞かせるとき、夜空を見上げてこう語る。
「ごらん、この空のどこかにあなたが輝いているんだよ」と。
そして、命の尊さを、無限の可能性を子に語るのだろう。
「生まれてきてくれてありがとう」という言葉と共に。
少年はその時間を得ることはできなかった。
語ることのできたはずの二人は、もう側にはいないのだから。
故に、少年は空を見ようとしなかった。
空には世界を照らす太陽があるだけ。
夜空には真っ暗な闇が広がるだけ。
そう。星の存在すら知らなかったのだ。現に、塔の頂上という空に限りなく近い場所にあってさえ視線を空へ向けることはしなかった。見上げる価値も意味もないのだと言うように。
その時、空は少年に存在を示すかのように大きく動きを見せた。
空の奇跡、流星群であった。
真っ暗な闇の中、光の筋が無数に流れては消えていく。
流星群は「星の涙」と呼ばれるように星自体が落ちるのではなく、星の発した光が空を伝う現象である。
少年がやっと気づき夜空を仰ぎ見た。
そこに広がっていたものは
昼に塔から見渡した森、そのものであった。
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