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隆二は、階段を駆け下りそのまままっすぐ昌子のデスクへ向かっていく。社長は外出しており、一階には昌子しかいなかった。
後ろから様子を窺いつつ、敦美は階段に身をひそめる。
「杉谷さん、ちょっといいかな?」
キーボードに置いていた手を止めて、昌子は隆二を見た。
「はい、何か」
「ん〜と…今週末、ドライブしないか?」
「は?」
昌子の返事が聞こえては来たが、敦美の所からは、昌子の顔も隆二の顔も見えない。
ーーーちょっと、やだ、誘い方があまりにも唐突過ぎない? もう少し、スマートに出来ないのかなぁ。
自分のことでは無いのに、敦美は手に汗をかいていた。
「ドライブ…私とですか?」
「そう。話もしたいし、会社の話とか杉谷さんと俺の…なんていうかふたりで?」
語尾を尻上がりにした隆二。
「休日にどうしてですか?話なら今でも出来ます」
「いや、ゆっくり話したいんだ。杉谷さんの今後のことも聞きたいし」
「どうせなら…好きな女性でも誘った方が良いんではないでしょうか?」
「…えっと、だから今」
階段でやり取りを聞いている敦美は、歯がゆくてたまらなかった。
ーーー副社長っ、今が告白のチャンスです!
「行きません」
「用事があるの?」
「ええ、私もドライブに行く予定なので」
「そ、それは、もしかして…恋人とかな?」
「だったら、何です?副社長には関係ありませんよね?」
ーーーなんだか変なムードになってきちゃったな。また、私の作戦が失敗したかなぁ。
敦美が悔やんでいると、隆二が
「関係あるよ。知りたいんだ、杉谷さんのこと」というセリフが聞こえてきた。
ーーー副社長ってば、なかなか頑張っている。
そう感心していた矢先にオフィスの電話が鳴り出した。
ーーーうわっ、電話だ。今が肝心な時なのに!
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