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敦美は、しばらくお客様に商品についての説明した後、注文を受け電話を切った。
メモ用紙を手にして一階に下りて行く。
電話に出て、客に商品説明をしていたらかれこれ20分くらいの時間が経っていた。
ーーー果たして…私の電話中に二人はどうなったかな?
「うっ!」
敦美は、先ほどより少し先まで階段を下りたところで足を止めていた。
隆二の背中に回っている昌子の腕が見えていたからだ。
ーーーラブシーン…そうだよね、きっと! 杉谷さんも副社長のことを好きだったのかな? うわっ、だけど、こんな時に私はどうすれば?
階段でしゃがみこんだ敦美は、しばらく息を殺して時が過ぎるのを待った。
しゃがみこむと二人の姿は全く見えない。
ーーーうまくいったなら良かったんだけど。私は、いつまでココに隠れていればいいんだろう。
階段にしゃがんで敦美がアレコレと考えていた所に隆二が姿を見せた。
「あれ、あっちゃん。こんなところでどうしたの?」
「どうしたもこうしたも…」
慌ててしまう敦美。
「あ、もしかして見てた?」
「二人のラブシーンなんか見てませんよっ」
「あ〜やっぱ見てたんだ?」
「少しだけですよ。ずっとじゃないです」
「まあ、いーよ。告白出来たのは、あっちゃんのおかげだから」
その言葉に救われた気分になり、ホッとする敦美。
「うまくいったんですね、副社長」
「ああ、週末はドライブに行くんだ。あっちゃんも行く?」
本気なのかわからないが、隆二の今の言葉は、かなりトンチンカンだ。
「まさか! 初めてのデートでしょ。邪魔はしたくないので」
「そっか。初めてのデートなんだなぁ。杉谷さんっ俺たち記念すべき初めてのデートですよ」
隆二は昌子を見た。
昌子は、ハンカチで目を押さえている。
ーーー杉谷さん泣いてるんじゃ?
「杉谷さん、暑い? 」
またもや空気を読まないトンチンカンな事を聞いている隆二には、少し呆れる。だが、そんな隆二の問いに
「少しだから平気です。更年期かも」と恥ずかしさを誤魔化すように答える昌子が、なんだか
可愛らしく感じた。
そのあと、
「更年期かぁ、あれって突然来るんでしょ?」
と、まるで昌子が本当に更年期にでもなったと思い込んだような言い方をする隆二を敦美は少し腹立たしく思って2人を交互に眺めた。
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