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「止まってくれてもいいのに。意地悪だなぁ敦美さん」
振り向いた先にいた人物は、有人だった。
「アルくん…どうして?」
「どうしてって、酷いな。忘れたの? ごはん食べる約束」
「でも、あんな風に別れたあと、連絡なかったからてっきり…」
「来ないと思ってたの? 冷たいなぁ、敦美さん」
怒ったみたいに口を尖らせる有人。
「ごめんね、アルくん」
「もういいよ」
有人は、人波から敦美を道路の端に連れ出した。細い路地に入りショッピングビルの角で敦美をぎゅっとハグする有人。
「会うと全部許せちゃうよ。俺さぁ敦美さんが大好きだから」
抱きしめられて背中に有人の手の温もりを感じていた。
ーーーどうしてだろう。胸が高鳴る。
相手が教え子のアルくんなのに、異性に対する時みたいに胸が高鳴る。
「敦美さん、俺さ東大卒業して敦美さんに会ったらお願いしたいことあったんだよね」
「お願い?」
有人の顔を見上げた。
屈託のない笑い顔が敦美を見おろす。
「そう」
「うん…いいよ。卒業式とかも知ってたら、プレゼント用意して行ったのにな」
「ほんと?」
目を輝かせる有人。
「ほんとだよ。何か欲しいものあるの?」
「ある」
即答した有人は、口角を上げて敦美を見つめた。
「敦美さんが欲しい…」
「え……」
聞き間違いだろうか?
見上げると目の前には敦美を見つめ返す有人のまっすぐな視線に出会っていた。
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