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「そうだよ。やっと思い出してくれたの? 先生と同じで、難しい方の『斎藤』って書く元教え子だよ」
敦美が高校生だった頃、知り合いの近所のおばさんに頼まれて小学生の男の子の家庭教師をしていたことがあった。
運動は好きだが、勉強をまるでしないのを心配した有人の両親が『この子の将来が心配だ』と近所のクリーニング店を営むおばさんに愚痴った。
お世話好きのおばさんは、店の客でもあり、近所に住む斎藤家の学生の敦美をすぐに思い出した。そして、敦美の母を通じて『敦美ちゃん、家庭教師のバイトをしないかしら?』と話を持ちかけてきたのだ。
当時、バイトも部活もしていなかった敦美は『あんた暇なんだから』と無理矢理、母に駆り出され、敦美の気持ちなど関係なく、両方の母親に押し切られる形で有人の家庭教師をやることに決まってしまったのだ。
幸いにも有人は、愛嬌のある笑顔が可愛い小学生の男の子で、素直だったし敦美に対して割と従順だった。
扱いやすい子供だったが、なにぶん勉強に対するやる気が無かった。
『ねぇ、先生。勉強って、やんないとダメなのかなぁ?』そんなことばかり言って、サッカーボールをいじっていた。
有人がやる気を出すまでには、半年くらいの月日を要した。
そのかわり……やる気を出した有人は結構出来る子供だった。敦美が言わなくても授業の予習や復習をするようにもなり、面白いように成績を上げていった。
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