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敦美は一年間くらい有人の家庭教師を続けたが、高校を卒業し短大へ行く前に、有人の家庭教師を辞めた。
あれから、10数年。
ーーーあの後、近所でも全然合わなかったのに。いきなり、こんなところで再会するなんて。すごい偶然!
敦美は瞬きもせずに有人を眺めた。
背は、だいぶ高くなったがニコニコ顔は、あの頃の面影を充分に残している。
それでも確実に顔も体も男の子っぽく逞しくなっている。
時は……確実に流れたのだ。
ーーー随分大人になったなーー有人くん。
ようやく敦美が警戒心をとき少し微笑む。すると、有人は嬉しそうに敦美を見つめて微笑み返した。
それから、すぐに有人は両方の手を伸ばし敦美を包むようにハグをした。
朝から人前でハグしている男女の横を通り過ぎる人達は皆、怪訝そうな顔や興味深そうな表情をして視線を向けていく。
朝から公衆の面前でハグしているカップルは、今日の気候には似つかわしくないブラックコートを着たジミ目な女と、白いブルゾンを羽織り白いカゴをぶら下げたかなり若そうにみえる男という組み合わせだ。
「ちょ…ちょっと、有人くんっ!!」
慌てて有人の胸を両手で押した敦美は、紅く頰を染めていた。
それでも、元家庭教師らしく
「有人くん。いきなりこういうことはやめなさいね。場所が場所だし」
と、怒らず焦りを隠して諭すように言った。
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