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プロローグ 雨が降る
街灯が照らす道路を歩いていく。革靴がいつもより重く感じる。
腕時計を見ると時刻は21時半を回って、すでに22時近くになっていた。
ひらりと何かが道路に落ちた。鞄のサイドポケットから落ちたそれは、僕の社員証だ。
拾った社員証をじっと見つめる。
風張 悠平
取り繕ったような引きつった笑みと、自分の名前。無性にくしゃくしゃにしてやりたくなる。
僕の仕事は営業職。スーパーや、食品加工業を営む取引先に対して、食品の包装資材や衛生用品を卸す仕事だ。
スーパーの生鮮主任や、食品工場の責任者という人たちは、なかなかクセが強い人が多い。
今日も営業先で懇々と説教を受けて、うなだれて帰社。
配送する資材を手配して、日報を作成していると、取引先からクレーム。注文していた資材が届いていないと、まさに火山噴火の如き怒り。
慌てて資材を自分で届けると、そこで責任者の方に説教をされて平謝り。
なんだかんだあって、今日も帰りが遅くなった。
「ん?」
違和感。
顔に当たったその感触は、馴染み深い感触だ。
「雨か。今日は夜から降るっていってたな」
ぽつぽつ、と雨が当たる。
まだアパートまでは距離がある。鞄から折りたたみ傘を取り出そうとする。
……ない、ないぞ⁉︎
なぜだあああっ‼︎ いつも持ち歩いているのにっ‼︎
記憶を辿ると、会社に居た時、夕立があったことを思い出した。出掛ける先輩に折りたたみ傘を貸したまま、返ってきていないことを思い出す。
「最悪だ!」
鞄で頭をガードして、急いで走り出す。
僕の人生。いつも、こうだ。
学生時代、ひとりだけ、彼女がいた。
デートの日はいつも曇り。彼女の誕生日などの特別な日は土砂降りの雨や、台風の上陸。
関係は3ヶ月しか続かなかった。
大学受験の日は、都心で稀に見る大雪。
面接試験の前日に42℃の高熱。体調不良で試験に挑んで、希望の就職先には落とされた。
今の会社の初出勤の日は、電車と自動車の踏切事故で大遅刻。理由はあったけど、連絡し忘れて第一印象は最悪になった。
出掛ければ、ほとんど雨が降る。
信号は必ず赤。
踏切はほとんど引っかかる。
並んだレジより隣のレジが早く終わる。
そんなこんなで、ついたあだ名が、災厄男。
これが、僕の日常だ。
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