サンタさんへの手紙

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「えっ……、 サンタさんへの手紙、郵便ポストに入れちゃった?!」    うん!  対戦型ゲーム機で遊ぶ息子は悪びれる様子もなく笑顔で答えた。  おい……  どうするよ……。  クリスマスまであと十日。息子の秘めた思いを聞き出そうとして書かせた手紙──  それを、よりによってポストに投函してしまうとは。  いやいやまだ十日ある。それとなしに聞き出せばよいではないか。  私はそう思い直すと息子に話しかけた。 「よっちゃん、そろそろ夕ごはんの時間。だからゲームはおしまい」  うん 「手を洗ってよ」  はーい  よしよし。  プレゼント欲しさに息子はいつになく聞き分けがいい。    これはイケるかもしれない。  今晩のおかずは唐揚げにポテトフライ。夫も息子たちも大好き鉄板メニュー。  案の定ヨシユキはムシャムシャと食べている。 「ゲームの続きがしたいからって、急いで食べないの。よく噛んで食べなさい」  一緒に食べる私は箸を止めて注意する。 「七時からランク戦があるから」と、ゲーム機を横目に口いっぱいに頬張る息子。   「ゲームばっかりしないの──」  いかんいかん。今夜の話題はサンタだ。    これは推測だが、ヨシユキが欲しいプレゼントは、兄が持っているものと同型のタブレット端末だと踏んでいた。    理由は、度々こそっり使っているのを兄にバレて喧嘩になっているからだ。  弟はこれまでも兄の持っているものを欲しがった。  幼稚園では変身ベルト。  一年生では子供用携帯電話。  昨年は…丸天堂のゲーム機。  だから今年はゲームにSNSを搭載されたタブレット端末だ。  もしサンタさんへの願いにタブレット端末と書いてあったら……。長男と同じように、中学生まではオアヅケにするつもりだった。 「ねぇよっちゃん」  うん…… 「ところでサンタさんに何を欲しいってお願いしたの?」   「ないしょ」  なにぃー内緒だと?!  まっ、しかたがない。  想定内。想定内。 「最近のサンタさんは電子メールもありだってさぁ」  息子の心の内を知ろうと手紙を書けと言ったのは私だ。誰が聞いたって苦しい口実を口にしてみた。 「俺、アディオスのパーカーが欲しいからアマソンサンタに頼んでくんない?」  塾から帰ってきた長男が食卓に座るなり言った。  リョウスケ! なんツーことを。  ヨシユキはまだサンタさんを信じているんだよ。だから弟の夢を壊すなってあれほど言ったのに。  次男の手前、これらの文言をぐっとこらえた。 「お帰りリョウスケ。あんたにサンタはこないよ」  私は冷ややかに言った。 「なんでぇ、受験生に愛と勇気と褒美を。俺さぁ服ないし」 「ねぇママー」 「何かなぁよっちゃん」  何が欲しいか、さぁ言ってごらんなさい。 「ヒナタが言うんだ」 「ヒナタ君ってダンサー目指しているあのヒナタ君?」  小学生ダンサーとしてご近所でも評判のヒナタ君。有名なのはダンスだけじゃなかった。  母子ともにいつ何時もジャージにパツ金。  パツ金とは金髪のことだが、ともかくパツ金。  一方、父親は今時珍しいバブルの匂いがぷんぷんするダブルのスーツを着て、どういうわけか母の母、つまりは、母方のおばあちゃんと一緒に参観に臨んでいた。 「ヒナタ君がなんて?」 「サンタなんかいないって」 「あっそ……」  これはある意味チャンスか?     幼稚園児はほぼ百パーセントサンタさんがいると信じている。  低学年でちらほら真実を知る。  そしてヨシユキの学年の三年生は、半信半疑も含めれば、まだ八十パーセントの子供たちがサンタさんの存在を信じている。  反対に中学生ともなれば── 信じたふりだ。 「信じない子のところにはサンタさんはこないかもね。それならヒナタ君のプレゼントはお父さんお母さんに買って貰うのかな?」 「違うよ。ヒナタんちは配送のおっちゃんが持ってくるんだ」  ぷっと、長男が吹いた。  私は睨みつける。  間違いないダンサーの家は通販だ…… 「きっとサンタさんも手が足りないんじゃないかな」私はそう言いつつも、この茶番劇をいつまで続けなきゃならないのかとも思う。  仮にいないって言ってしまったら……これはこれで楽かも。  四十路にもなって、いつまでもサンタがいるふりを続けるのも正直いってツライ。  今、この場で、いないって言ってしまおうか。      
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