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高校生になり地元に帰ってきたお前を見た時は、連絡を取らなくなってしまった気まずさと喜びがない交ぜになった。
それでも離れていた空白の時間を埋めるのにそれほど時間はかからかなったけれど。
「なに見てるんだよ」
背後からの声に一瞬身体を強張らせてしまった。
奴は僕の手にある手紙を一瞥すると面白くなさそうに奪い取った。
「つまんないだろ、こんなの」
「そんなこと……」
そんなことない。
彼の胸には大きな傷痕があった。
醜いだろ、と自嘲気味に揶揄した姿を僕は今でも覚えている。
そんなことない。
だってその傷が、いま彼が生きている証なのだから。
「その、なんだ。お互い大きくなれてよかったな」
ああ、何言ってるんだか。
「まぁ、そうだな」
僕の意味のない会話に返答しながら、奴はおもむろに抱きしめた。
汗ばんだ匂いと整髪料の匂いが先ほどまでの情事を思い出させられる。
ああ、十年前の僕よ。
あの時、出すこともなく途中で投げ出してしまった手紙の続きを書くとするのなら、最後に一言、
『また会えるよな』
と付け足しておきたい。
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