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「猫さんの好きなもの……ですか?」
商店街を歩く女子高校生、旭小夏は栗色の柔らかな髪をくるりと揺らすと隣を歩く男子高校生に向かって首をかしげた。
「そうだ。猫の好きなもの……俺には皆目見当もつかないが、可能な限り大量に購入し直帰しろとのことだ」
顔面に仏頂面を貼り付け、眉間により一層深い皺を刻んだ高校生、の皮を被った暗殺者、相馬八雲は仰々しくため息を吐いた。
手にしたスマートフォンには仕事の相方であるロイ・エバンスからのメールが届いている。それ以上もそれ以下も書かれていなかったメール画面を閉じると、八雲は苛立ちを隠せない様子でポケットにスマホをねじ込んだ。
この様子だと今日は小夏と一緒に夕飯が食べられそうにないからだ。
「残念ながらこの商店街には猫さんの食べ物は売ってないんです。お魚はありますけど……でも、商店街を抜けて5分ほど歩きましたら大型スーパーがありますよ。そこでなら猫さんのお好きなものが置いてあるかもしれません」
「助かる。すまない旭、今日は一緒に夕飯を食べられそうにない」
旭家の玄関先まで小夏を送り届けた八雲は、そっと小夏の栗色の毛を撫でると申し訳なさそうに目を伏せた。
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