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「凄かったな、彼」
「ああ。誰かを好きになる感情は、確実に人を強くするんだな」
誠と真琴は、人目も憚らずに頬を寄せ合い抱き締め合っていた。
あの炎が広がっていくロッジの中で何があったのか。
油が撒かれていたらしく、炎はあっというまに建物を呑み込んでいった。
香帆は必死に声を張り上げ彼らを探すと、誠の応答が聞こえ、間もなくだった。
炎の中からシーツに包んだ真琴を抱き抱えて誠が出て来たのだ。
誠は、煤に汚れた顔で香帆に笑った。
『先生の声が、僕に〝死なせない、死なない、二人で生きるんだ〟っていう力をくれた』
何があったのか、誠は語らなかったが、一度は一緒に死のうとまで思ったのかもしれない。
でも、彼らは今あそこにいる。
「これから、大変だぞ、彼らは」
夫の言葉に香帆はため息を吐いた。
事件を嗅ぎつけた様々な媒体の記者が至る所から湧いてきた。彼らは面白おかしく記事にしてしまう。
救急車の中の二人に近づこうとし、警察に止められている。彼らが自分達のところに来るのも時間の問題だろう。
「私達は何も話さなけりゃいいだけの話だ」
「そうだな。じゃあ、ヤツらに捕まる前に車に乗ってしまおう」
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