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1部 ありふれた転生?(仮)
「……けて、……すけ 、助け……けて!」
どこからか、女の子が助けを求めるような声が聞こえる。
声の主を探そうと辺りを見回す。
辺りはいつの間にか炎で囲まれていた。
その中で人が剣などを振るって、争っているようだった。
「助けて! 誰かお願い!」
争う集団の中に彼女はいた。
助けを求める声は、自分意外には届いていないようだった。
彼女の声に応えようとすると、視界が暗くなっていった。
次に視界が明るくなった時は、見慣れたなんの変哲もない天井が俺を迎えた。
「またあの夢か。俺は普段夢を見ないんだけどなあ。 これで何度目だ? 」
そう、 あの光景は夢なのだ。
ここ数日、 毎日あの夢を見る。
「ははは、 まさか何かの予言とでも言うんかね。 まさかね。」
少し不安になる自分を励ますかのように、 俺はそう呟いた。
俺の名は、 空 肥太(から こうた)
友達からはよくカランコエと言う愛称、ん?
これは愛称なのか?
とまあそんなふうに呼ばれてる。
まあこの名で呼んでくれるやつしか、 俺には友と呼べるやつはいないから。
正直愛称を付けて呼んでくれるのは正直、 感謝してる。
俺は学生の時からちょっとしたいじめとかに会い、 人を信じられない、 自分から遠ざける傾向がある。
正直治そうとは思ったこともあるが、 やはり1度形作られたものはそうそうどうにか出来たものでは無い。
特に女は嫌いだ。 自分の見た目が悪いってだけで、 まるで、 ご〇ぶりかのような扱いを受けたことを俺はトラウマになってしまった。
だからと言って女を好きにならないのかと聞かれたら、 そうでも無い。
やはり女を好きにはなるし、 その気持ちをなくすことは出来ない。
これだから人間はめんどくさい。
だがそれでも向き合っていかないといけないのも、 もどかしい。
そんな自分を変える為に俺は昔、 心理学をかじったことがある。
まあ、 そんな物身につけたって相手の心が読める訳でもないのにな。
しかもそれが仇となったのか、 余計に人が信じるのを難しくなって遂に鬱病になってしまったのである。
救えない話である。 そんな自分の弱い心が助けを求めてあんな夢を見せてるのかもしれない。
そう思えてきた。
ピピッピピッ
ふとスマホのアラームが鳴り響く。
「はぁ……もう仕事に行かないとな」
そうため息をついていつものように、 仕事の準備をして部屋を後にした。
2019年9月
もう夏も終わろうとしていた。
だがまだまだ残暑は続いている。
「ふぅ……最近やっと涼しくなってきたのにまたこの暑さか。 日本、 いや世界はどうなってるんだか」
そんなどうでもいいことを呟きながら車を走らせる。
俺は仕事終わりは山道を車で走るのがいつもの日課だった。
やはりこの景色には目を見張るものがあるな、 いつもそんなことを思いながらここを通る。
─ズキン!─
突然頭痛がした。
「はぁ、 またか。 ここんとこまた頭痛が酷いな。」
俺はもともと見た目の割には、 体が強い方ではなかった。
だいたいいつも何かしら痛みだの、 気だるさだのを感じていた。
だが今回のは少しいつもとは違うような、 曖昧だがそんな感じがした、 気がする。
「……けて、 助……け、 助けて!」
突然頭の中に夢で聞いたあの声が響いた。
「なんだ? なんであの声が聞こえるんだ?」
突然の出来事に俺は混乱した。
「うるさい! 今はやめてくれ。 それにこの声! 夢で聞いた声??」
何が起きてるんだ、 これは夢なのか?
そんな考えが頭の中を過ぎる。
「助けて、 お願い! 誰か!」
声はどんどんハッキリしてくる。
頭痛と共に目眩もしてきた。
「あっ、 これはやばい」
そう思った刹那、 時は既に遅かった。
俺の車は崖に目掛けて突っ込んでいた。
俺は必死にブレーキを踏み込んだ。
─キキィーーーー─
甲高い音を鳴り響かせる車は俺の願いとは裏腹に、 ガードレールを突き破っていた。
………………
─コツン、コツン─
痛い、 何かにつつかれてる、 いやそんな可愛いもんじゃない。
まるで鳥に啄まれるような感覚がする。
「って、 まじで痛え!!!」
俺がそう叫びながら身を起こすと、
─ビャーーー─
と聞いたことない鳴き声を上げ、 俺をつつく、 もとい啄んでいた下手人は飛び去って行った。
「たくなんなんだよ。 あれはカラスか? んにゃ似てるけど違う気がするな。 それよかここはどこだ??」
辺りを見回してみる。
辺り1面木に囲まれていた。
だが何かがおかしい。
俺は確かに崖から落ちた、 もしここが落ちた先と言うならあるべきものが無い。
俺が乗ってた車、 俺が落ちてきた場所、 そもそも山すらない。
俺がいる所は森っぽくはあるが山やその麓ではないこと、 言わば平地みたいだ。
一応周りの木の上の方を見てみたが、 やはりそこには俺の車はなかった。
それよか車が乗るほどの大きさを持つ木はなかった。
「ここは、 どこだ? 俺はどうなったんだ? 死んだのか?」
いや、 それはないことは先程証明されてる。
死んだのなら痛みは感じない、 それに心臓が鼓動を送り込んでるのを確かに感じる。
まあ頭から少なからず血は出ているのだが、 それも生きてる証拠にはなる。
もう一度辺りを見回してみる。
「おっ! あれは街か?」
木々の隙間に僅かに街のような面影が見えた。
「確かあの辺には街はなかったような気がするな。 いよいよ怪しくなってきたな、 とりあえずあそこで情報収集と行くか。 何事も知らなければ始まらない。」
俺はとりあえず街を目指すことにした。
自分に起きてること、 ここがどこなのかを確認しなければ。
…………
歩くこと約30分ほど。
先程見えた街はだいぶ近くなって来た。
こうして近づいてみるとそこそこ大きな街のようだ。
しかしやはり、 見たことの無い建物というか、 まるで中世の建物のような出で立ちであった。
「ううむ、 やはりこれはタイムスリップか何かか? それにこの道の脇にある街灯みたいなのはなんなんだ?? 見たことないなあ、 変な石みたいのが輝いているように見えるし。」
よく見るとその街灯みたいなのは街も囲むようにして立っていた。
ようやく街の入口までたどり着くことが出来た。
やはりそこそこ栄えている街のようだ。
出店やお店、宿屋みたいな建物もチラホラ見える。
人もそこそこいるみたいだ。 それに、 甲冑を着てる人や、 剣や杖のようなものを携えてる人もいるみたいだ。
「コスプレ祭りかなんかな。」
ふとそう呟いた。
不思議そうに周りをキョロキョロしながら街をぶらついてると突然、
「おおぃ! あんちゃん大丈夫かい!」
と、大きな声で叫んでる人がいた。
うはー怖そうだなあ、 くわばらくわばら。
ああいうのには絡まれたくないなあと思ってそのまま行こうとする。 が。
「あんちゃんだよ、 あんちゃん! 何素知らぬ顔で行こうとするんだい!」
そのオヤジは一目散に俺のとこに駆け寄り、 俺をそう言い引き止めた。
「お、 俺ですか? な、 何か御用ですか?」
俺は恐る恐るそう答えた。
「御用もなにも、 その傷は大丈夫かよ! 何があったんだ? 頭からすごい血が出てるぜ!」
頭から血? ああそういえばそうだった。
色々なことで頭がいっぱいで、 そんなことはとうに忘れていたのであった。
「ああそういえば。 多分交通事故の時に頭を打ったんだと思う。 目が覚めたら変な鳥に啄まれてたし。 多分大丈夫。 かな?」
「交通事故? なんだそりゃあ。 よくわかんねえがその鳥ってのはどんなやつだった?」
交通事故を知らない? だと、 やはりここは俺がいた所とは違うのか? じゃあカラスってのも通じないか?
「うーん、カラスみたいなやつだった。 うーん、 黒いやつ。」
「カラス? 知らねえなあ。」
やっぱりか。
「だが、 その傷、 黒い鳥。 間違いねえ、 それはムクロドーバの仕業だな!」
ムク? なんだって?
「そのムクなんちゃらってのはなんなんだ?」
「あんちゃん、 ムクロドーバ知らないのかよ! あんな魔物誰でも知ってるってのによ! よく生きてたな!」
魔物? だと? いよいよタイムスリップ説も無くなって来たってことか。 うん? てことは?
「なあ、 オヤジ今何年だ?」
「オヤジって、 俺はまだ……まあいい、 今は天暦521年9月9日だ。 ここは聖都レッグだ。」
天暦? 521年? いつだそれ? 聖都? 聞いたこともないぞ。 やはりここは俺の知らない世界なのか?
「あんちゃんもしかして記憶喪失か?」
「いや、 そうでは無いみたいだ。 てことは?」
「てことは?」
これはもはや確定だと思われる。
ここまでの情報を整理してみる。
俺は山で交通事故を起こし、 崖に落ちた。
目を覚ますと見知らぬ場所、 見知らぬ鳥、 見知らぬ街。
そして魔物なんてのもいるらしい。 これはもうあれだ! 異世界何とかってやつだ!
俺は死んだのか、 召喚されたのか、 何なのかは知らんがアニメとかでよく見てた異世界何とかってやつだ! そうに違いない!
「ふっ、 ふははははは! そうか、 やったぞ! ついに俺も異世界に来たんだ! 俺の時代きたああああ!」
「あんちゃん頭でもおかしくなったか? 異世界がなんだって? それはなんだ?」
やはりそうだ、 これは!
てか文字も言葉もやっぱり通じるんだな。
お約束というやつか? てことはこれから薔薇色人生があああ?
「あんちゃん? なーにニヤニヤしてるんだ? きもちわりいぞ。」
「あぁすまない。 ちょっと思索に耽っていた。 そういえば俺になんか用があったんじゃないか?」
「んあ、 ? ああ、 あんちゃんが大丈夫なのはよくわかったからよ。 安心したんだがとりあえずその血はどうにかした方がいいぞ。」
「そんなに酷いのか。」
そうか、先程からすれ違う人が俺を見てヒソヒソしてたのはそれが原因か。
「どこかで洗えないだろうか?」
「うーん、 近くの川なら洗えるだろうな。 あの辺なら結界も届いてるしな」
「結界? なんだそれは?」
「あんちゃん、 なんにも知らないんだな。 街の周りにある柱みたいなのは見ただろ? あれがそうだ。 あれのおかげで魔物からの襲撃を受けないですんでるんだ。 まあ街と主要な道だけどな。」
「つまりその結界があるとこなら安全なんだな? ない所を通りたい時はどうするんだ?」
「そんな物好きはいねえよ! まあどうしてもって時は冒険者を護衛に付けたり、 自分で身を守れるやつは武器を持って行くな。」
「冒険者? 冒険者ってなんだ?」
「ふぅ……冒険者てのは、 ギルドに所属してる魔物狩りとかを生業にしてる奴らのことだ。」
ギルドってのはまあきっとそのままなんだろう。
これ以上聞くのも悪いな。
「そうなのか。 色々とありがとう!」
この世界にはこんなにもいい人がいるんだな、 やっぱり人は見た目では推し量れないな。
「パパあ!」
小さな女の子がとてとて駆け寄ってきた。
「おぉメアリー、 どうした?」
その子はどうやらオヤジの娘のようだ。
「ママが呼んでるの! そのおじちゃんは?」
おじ! 俺は一応23なんだが。 まあ慣れてはいるが。 流石に……
「ひどい怪我だったから心配で声掛けたんだよ! だが大丈夫そうだから安心だよ。」
「そうなんだ、おじちゃん大丈夫??」
そう言うと女の子は心配そうに顔を覗かせた。
「あぁ大丈夫だよ。 ありがとうメアリーちゃん。」
「なんでメアリーの名前知ってるのお?」
と、 不思議そうに首を傾げた。
「さっきお父さんがそう呼んでたでしょ? だからメアリー、 って名前なのかなって。 違ってた?」
「ううん! そうかあ! それでかあ!」
メアリーは天使のような笑顔でにこやかに笑っていた。
「じゃあな、あんちゃん! 今度はそんな怪我するんじゃねえぞ! メアリーさあ、 お家へ帰ろう!」
「うん! バイバイおじちゃん! 困ったことあったらいつでもお家に来てね!」
「ありがとうメアリーちゃん! オヤジもありがとうな!」
「たくっよう、 俺はゲイルちゅぅんだ、 あんちゃんは?」
「俺は……空……」
そう言いかけて1度口をつむんだ。
「あんちゃん?」
「あ、 いやなんでもない。 俺はカランコエ、 カランコエだ!」
「変な名前だなあ、 だが良い名だな!」
「ありがとう、 また会おう! 」
「俺はそこの路地を曲がったとこで鍛冶屋をやってる。 いつでも来いよ!」
鍛冶屋か、 通りでガタイのいいわけだ。
「わかった! じゃあな!」
こうして俺が初めてこの世界で話をした親子と別れた。
俺はすぐに教えてもらった川に行き頭を洗うことにした。
「すごく綺麗な川だな、 鏡のようだ。 この世界の川はみんなこうなのかな、 てかここで洗うのは恐れ多いな。」
周りを見渡してみる、 誰もいない。
よし、 ササッと洗ってしまおう!
……
洗い落とした血は綺麗な川を僅かに赤く染めた。
だがそう思ったのもつかの間、 川はすぐに元の綺麗な澄んだ川に戻った。
ふと川の水面に映った顔を見る。
相変わらずひどい顔だ、 それに額に切り傷が出来てる。
これが出血の原因か、 こりゃ確かに血も出るわけだ。
俺はまた街に戻ることにした。
「おう、 あんちゃんじゃねぇか! おっ、 綺麗に流してきたようだな! うぉ! ひでぇ傷だな、 こりゃ早く治した方がいいぞ! 教会に行くといい、 そこなら治してくれるだろ。」
酷い顔、 って言われるかと思うた。 ははは、 気にしすぎだな。
「ありがとう! だが俺は実は1文無しなんだが大丈夫だろうか?」
「うーん、 前の教会なら問題はなかったんだが、 最近はいい噂を聞かねえからな。 だがそれは教会でしか治せんだろうな、 試しに行ってみるといい。 この大通りをまっすぐ行った所にあるこの街で1番でかい建物がそうだ。 すぐにわかるだろ」
「むう、 嫌な予感がするが行ってみるとするよ。 すまん助かる。」
「あぁ、 いいって事よ。 困った時はお互いさまよ!」
こんな人がもっといたらなあ、 どの世界も平和になると思うのにな。
そう上手くは行かないか。
ゲイルに別れを告げて教会に向かうことにした。
「でっけえ建物だな。 遠くから見ても大きいことが分かるが、 近場で見ると尚のことだな。 それだけでかい力を持ってるのか。 それにこの大きい女神像は、 これがこの宗教のシンボルなのか? 随分と嫌味ったらしい笑顔だこと。」
おっと、 こんなこと言ったら殺されるな。
「すまん誰かいないか?」
入ってすぐ大きなホールになっていた。
とても静かだ。 まあ教会だしそりゃそうか。
静かなホールに俺の声がこだまする。
「1天教の教会にようこそ。 なにようかな?」
奥から1人の男が現れた。
「この額の傷を治してくれると聞いて来たんだ。 出来そうか?」
「えぇ、少し見してもらいます。 ふむふむこれはムクロドーバにやられたのですね。 少し魔傷がありますね。 ではお布施を。」
「あー、 申し訳ない。 1文もないんだ。 昔はやってくれると聞いたのだが?」
「ふむぅ、 昔は昔。 今は教会の維持のため何をするにもお布施を頂いておりますゆえ。 あなただけそうとはいきませぬ。 申し訳ありませぬがお帰りくだされ。」
ゲイルの言ってた通りか。 何処も彼処も金が全て、 か。
「わかった、 手間をとらせて悪かったな。」
「大天使の加護があらんことを。」
ふん、 白々しいわ。
これが今のこの世界の教会の在り方なんだろう、 これが教会とはな。 神も仏もねえな。
おっ、 あそこに見えるのは!
あれがゲイルの鍛冶屋か! 一応顔出しておくか。
「よぉ! ゲイルのオヤジ!」
「お! あんちゃんじゃねぇか。 その顔見るにやはりダメだったか。 すまないな力になれなくてよ。」
「あんたが謝ることじゃないさ。 それにしてもあれが教会とはな。」
困ってる人は無償とかで助ける、 それが俺の持つ教会のイメージだったが違ったのだろうか。
「昔はあんなんじゃなかったんだがよ、 困ってる人には無償で手を差し伸べてたのに今やあれだ。 しかもこの国では教会はあの1天教しかない。 そして魔傷は教会でしか治せない。」
「いい商売だな。 」
狂ってる、 ライバルがいないから好き放題というわけか。
「他には宗教とかは無いんだな。」
「あぁ、 この国では1天教しか崇拝出来ないんだよ。 まあ昔からそうだから誰もそれが当たり前だからな。 教会がどんなことをしようと気にしないのさ。」
「それはそれでダメだろ。 そんなんでいいのかよ。」
「あんちゃんの言う通りだな。 だが逆らうことも出来んのだよ。 神の神罰がくだるからな。」
神罰? 実際になにかされるってのか?
「神罰って、 何が起きるんだ?」
「そうだな、 今まで起きたの飢饉や、 疫病、 魔物の襲撃とかだな。 どれも1天教に逆らったり害をなそうとした時に必ず起きたみたいだな。 それもだいぶ前のことだから実際その時にいたやつはほとんど居ないだろうがな。」
「まるで神に見張られてるみたいだな。」
そんなんじゃ気が滅入るな。
「まあ、 しっかり信仰して拝んでりゃ安泰だ。 だから誰も逆らわない。 そういう事だ。 あんちゃんも気をつけろよ?」
「ご忠告痛み入る。 大丈夫だ、 多分な?」
「なら安心だ。 あんちゃんはこれからどうするんだ?」
確かに、 それは最重要課題だな。
これからどうするか、 まずは安定した生活基盤を作り上げなければいけない。
となると仕事を探すべきか。
「そうだな何か俺にもできる仕事はないか?」
「仕事か、 誰でもできるって言えば冒険者だな。 武器さえあればあとはギルドに所属するだけでいい。 冒険者は常に募集してるぞ、 あんちゃんでもなれるだろ。 そうだ選別代わりにこいつを受け取れ。」
そう言うとゲイルは奥から色々と持ってきた。
「まずはこれだ。 あんちゃんのその格好、 言わないでいたが随分見慣れないからな。 それだと目立つだろ。 てことであんちゃんでも扱えそうな、 皮で作った軽鎧だ! インナーも付けとくぜ!」
確かに軽いし、 しかも俺の体格に合ってる。
このオヤジ目利きも、 腕も相当いいみたいだ
「そしてこいつが俺が打った剣だ。 少しほかの剣とは違った形のやつを打ったんだが誰も買ってくれなくてな。 売れ残りで悪いが勘弁してくれな?」
これは! 剣というよりは刀に近い、 まさかこんな所でわが祖国の武器に似たやつを見れるなんて!
「いや、 これはいいものだな。 いいのか? こんないいもの貰ってしまって。」
「こいつもここで錆びてくより、 誰かに使ってもらった方が喜ぶだろうよ。 大事にしてやんな。」
「少し、 素振りしていいか?」
「周りには気をつけろよ?」
─ブンッ、ブンッ─
すごい、 やはりしっくりくる!
昔合気道で木刀を扱ってたことがあるが、 それよりも軽く、 しかし刀身も綺麗に鈍く光ってる。 これは素人でも分かる、 いい刀だ。
「うん、 やはりこれは業物だな。 ゲイルのオヤジいい仕事するな!」
「あんちゃんも、 随分板についてるじゃねえか! その辺の冒険者より腕が良さそうだな。」
「そうか? 気の所為だろ、 でもありがとよ! いつかこのお礼はさせてもらうよ!」
こんな人が俺の近くにいてくれたら俺の人生はもっと変わっていたかもしれないな。
だが俺の今の現実はここだ。 この恩決して忘れてはいけない。
「そうだギルドってのはどこにあるんだ? 」
「ギルドはな、 支部はあちこちの街にあるんだがよ、 所属申請をするのは本部でしか出来ねえ。 本部はこの街から北に2日ほどだな、 天都ヘッズてとこでできるぞ。」
「そうか、 結構かかるんだな。 車があればなあ。」
「車? なんだそりゃ。」
「まあ、 便利なものだ。 まあこれからそこに向かうことにするよ。 北に続く道をそのまま進めばいいんだよな?」
「そうだが、 今から行くのか? 日も傾いてきたし今日はうちに泊まったらどうだ?」
嬉しい誘いだ、 正直その言葉に甘えたいところだ。
だがこれ以上世話にはなれないな。
「いや、 少しでも早く冒険者を目指したい。 せっかくの誘いだが申し訳ない。 でもありがとう!」
「そうか。 無理にはとめねえよ! だが無理はすんじゃねえぞ。 じゃあこれを持っていきな! 数日分の食糧に、 野宿道具など必要最低限のものを入れてある。 簡単には死ぬんじゃねえぞ!」
「ありがとうよ! またなゲイルのオヤジ!」
正直ゲイルと別れるのは辛いがいつまでも世話になる訳にはいかないもんな。
まあ、 今生の別れになるわけではないだろうし、 次会うときはしっかりお礼をしないとな。
ゲイルと彼の家族と挨拶を交しこの街を後にした。
彼とその家族は本当に幸せそうだった。
奥さんも綺麗で、 娘さんも天使のようだ。
俺が家庭をもったらどんな家庭になったのだろうか、 いやそんな幻想を抱くのはやめよう。
とうにそんなもの捨てたのだ。
あの家族が生涯幸せでありますように。
こうして俺の異世界生活は始まりをつげた。
これからどんな事が待ち受けてるかはまだ分からないけど、 なんとか生きてみるさ。
………………
「だいぶ暗くなってきたな。 ここらで野宿するかな。」
聖都から出てだいぶ経ってきた。
やはりこの世界は俺の世界に比べて夜は月明かりがよく映える。
人口のライトが少ないからだろうな。
道を照らしてくれるのは結界が放つ僅かな光と月明かりだ。
そういえばさっきすれ違ったやつが杖から光を出してたな。
あれが魔法ってやつか、 便利なもんだな。
ここに至るまでにやはり何度か冒険者らしい集団とすれ違ったりした。 あとは商人とかだな。
流石に聖都と、 天都を繋ぐ主要街道なだけあるかもな。
結界てのもやはりそれなりに力があるのは確かみたいだ。
何度か遠目で魔物らしきものが見えたが1匹たりともこちらに近づく気配はなかった。
「結界の外に出たらあのクソ鳥みたいなのに好き放題襲われるんだろうな。 おぉ怖い怖い。」
流石に怖いものはあまりない俺にも理不尽に襲われるのは真っ平ごめんだ。
いくらゲイルに武器なり貰っても俺はなんの訓練も受けてない一般ピーポーだ。
即死もんだろな。
ふと周りを見渡してみる。
冒険者らしき人達と商人連中がキャンプやら焚き火を起こして野宿してる。
やはり結界の中だからか、 多少の安心感はあるみたいだな。
「しかし野盗とか居ないのだろうか。 そればかりは不安だな。」
皆、 神の天罰を恐れて犯罪とかしないとか? だったらいいんだが。
「とりあえず今日は警戒しながら寝るとするか。 」
俺はゲイルから貰った刀、 ちなみに闇霧と名付けた。
を、 すぐに取れるように抱きしめながら眠った。
─チュンチュンチュン─
小鳥のさえずりと共に目が覚めた。
ガバッ!
「やべ! 遅刻か!?」
と言ってハッと我に戻った。
今は俺は日常から離れたところにいるのだと。
「そう言えばあの夢見なかったな。」
散々見てきた同じ夢を何故か昨夜は見ることがなかった。
俺は自分の周りを見回した。
昨夜いた人達は既に出立してるようで、 周りは焚き火の燃え尽きた後だけが残っていた。
ふと自分の荷物を確認することにした。
「良かった、 何も取られてない。」
俺は肩をなでおろした。
今回は野盗などに会わずにすんだようだ。
安心したのか、 俺はもう一度地面に寝転んだ。
この1日でどっと疲れたような気がする。
それもそうだ、 2度死にかけ、 1人見知らぬ世界に放り込まれたのだ。
今までの常識は通用しない、 何故か言葉や文字体系が共通してるのか通じるとこだけが救いか。
あっ、あと最初にあった人があの人で良かったとこかな。
「はぁ野宿なんて初めてやったな。 ふかふかのベッドで寝ないなんていつぶりだろ。 まるで友達の家で雑魚寝してる気分だ。 いやそれよりひどいか。」
早くふかふかのベッド休みたい、 今はそれだけが望みだ。
「さあて、 とりあえず飯にするか。 お腹がすいては戦は出来ぬ、 ってな。」
俺は早速ゲイルから貰った食糧は見つめた。
見たことの無い果物や、 パン? のようなものがいくつかあった。
「ううむ、 どれも見たことないな。 あっちのやつにも似たようなのはあるけど。 これバナナぽいな。 これでいいか。」
袋の中からバナナのような黄色い果物を取り出し食べることにした。
どうやらほんとにバナナみたいだ、 周りの皮を剥き中の身をみてそう思った。
味は普通に上手い、 てかバナナだろ。
バナナと違うのは食感が固めなとこだ。
まるで冷凍バナナを、食べてるような食感なのだ。
「冷凍バナナ懐かしいな、 よくバナナ買ってきて毎日1本食べてたな。」
そんなどうでもいいことを思い出していた。
俺はそれはたいらげると、 重要なことを思い出した。
「あっ! 歯磨き、 歯磨きはどうすんだ??」
すかさずカバンを漁ってみる。
それらしきものはやはりなかった。
困ったものだ、 やや焦りながら漁り続けるとひとつのあるものを見つけたのだ。
「し、 塩? これは塩かな、 粒を見る限り塩に見えるが。」
そこには塩らしきものがひとつの小さな袋にところ狭しに詰められていた。
ペロッ
「しょっぺえ! 塩だやっぱり! そうだこれで!」
俺は塩を指でつまみ、 歯や歯茎等に練り込ませた。
「うひゃーー、 やっはり、 しょ、 しょっへえ。」
そのしょっぱさや、 なんとも言えぬ刺激に言葉にならぬ言葉を出していた。
一通り塗りたくると、 俺は少しそのままにしてから水筒の水を少し口に流した。
その水を口の中で何度も転がし、 ペッ!
と、 地面に吐き出した。
「汚ねえもん流して悪いな。 堪忍してくれな?」
そう誰にも話しかけるわけでもなく、 ただ静かに地面にそう呟いた。
「塩での歯磨きってこれでいいんかな? 適当にやっては見たが。 まあやらないよりかはマシだな。」
塩があって助かった。
この世界の人達はどのようにして歯を磨くのだろうか。
塩と食糧の量からして、明らかに塩が多すぎる気がするが。
こればかりはなんとも言えんか。
何はともあれこれで後顧の憂いは消え失せたわけだ。
「さて、 そろそろ動くとするか。 正直めんどくさいけど。」
元来俺は極度の面倒くさがりで、 あまり積極的では無いのだがそうもいかない現状があまりにも辛いし、 苦しい。
でも頼れる人もいない、 甘える訳にはいかないんだろうな。
「ははは、 今まで甘えてきたツケが回ったな。」
俺は今まで母親に甘えてきた。
いわゆるマザコンってやつなのかも知れない。
だが俺はそれがいけないのは知ってるし、 何度も努力した。
それが報われたことはないが。
俺の家庭は中学生の時に崩壊した。
親父は元々手癖が悪く、 暴力や浮気をする人だった。
特に暴力は母親に向けられることが多かった。
たまには俺にも飛んできたが俺はそこまで気にしなかった。
そして中学2年の時だったかな。
その日が来た。
ある日母親が学校に来て離婚するから、 父親から逃げるから、 と告げられた。
それ自体は何も思わなかった。
俺はすごく性格が悪い、 親父を見て育ってきたから口も悪い。
思春期真っ只中の俺は母親に酷いことばかり言ってたりしたこともある。
それに俺は小学校5年くらいの時から周囲になじめず、 軽いいじめを受けていた。
中学に入ってからもそうだった。
それが原因で何度も自殺を考えたり、 他を拒絶したくなることがと多かった。
そして母親にも必然的に辛く当ってしまう。
それが何より嫌だった。
自分は早く親を楽にしてあげたい、 苦労をかけたくないそう思っていた。
だから中学卒業したら働くつもりだった。
流石に親と教師に説得されたが。
高校行ってからもあまり変わらなかった。
気の許せる友人に会えたのは嬉しい誤算ではあったが。
その友人ですら真に信頼は出来てないけど。
そして高校を出て働いた。
でも、何故か上手くは行かなかった。
働いても何かしらで上手くいかなくなる。
仕事も長続きしないで転職を何度か繰り返していた。
そしてまた母親に迷惑をかけてしまう、 それではいけない。
ってどんどん自分を焦らせ、 追い込む。
そんな負のスパイラルに陥っている。
今考えてみれば俺はこの世界にきてそんなしがらみに解き放たれているのかもしれないが、 それでも俺の根幹である母親を助けたいって言うところは変わらないのだろう。
まあ、現実の俺がどうなったかなんて知らないし、 知る由もない。
帰れる保証もない、 今だけは全てを忘れて新しい俺で生きていくしかないのかもしれない。
そんなふうに切り替えれたらな、 人間不器用な生き物だよね。
そんな嫌な記憶も勝手に浮かんでくる、 いいことは思い出せないのに。
人間はいいことより、 消したい記憶の方が根強く残る。
一体なんだって言うんだ。
そんな悶々とした気持ちで足を運んでると目の端に何やら映り込んできた。
どうやら複数人が言い争いか何かをしてるようだ。
いや違うな、 あれはまるで複数人が2人の親子を取り囲んで何やら騒いでるように見える。
「おーいなんでテメーらネームレスどもがこんなとこにいんだよ、 ああん?」
「おやめ下さい! 私たちはただ街に帰ろうとしてるだけなのです。 あなたがたになんの危害も加えてませんし、 そんなつもりもありません! ですからお見逃し下さいませ!」
そう言うと男は泣きわめく子供の横でどけ座をしていた。
「あーん? テメーらの存在そのものが害なんだよ、 平然と俺らの前通れるなんて思ってんじゃねぇぞ。」
そう言うとガラの悪い男はどけ座をする男の頭を踏みつけ、 グリグリと足を動かしていた。
周りの連中はそれをみて笑っていた。
男はただ、 ただ踏みつけながら地面に頭を擦りつけ、 ただ、 ただおやめ下さいとだけ何度も繰り返していた。
「ちっ、 クズどもめ。 誇りも何も持ち合わせてはいねぇのかあいつら。」
俺はそう呟いていた。
そして俺の足はまっすぐそいつらに目掛けて歩みを進めていた。
「おい! クズどもその汚ねえ足を退けてとっとと失せろ。」
俺はドスのきいた低い声でそう呟いた。
「あん? てめー何様だよ。 それに俺は害虫を処理してんだよ邪魔すんな。」
男はそう言い放ちこちらを睨みながら足をまたグリグリと動かしだした。
はぁ、 どっちが害虫だ。
なんでこういうやつに天罰はおりないんだ。
なんてことを思っていた。
「はぁやれやれ、 痛い思いしないと分からねえんだな。」
そう囁くと、 俺はやつを思いっきり突き飛ばした。
「いってえ! 何すんだよくそが!」
「ほざけ、 無抵抗の人間に一方的に手をあげやがって。 貴様の方が余程クズだな。 恥を知れ。」
「お、 おいこいつ! 冒険者じゃねえのか?」
ガラの悪い男の仲間らしき1人が声を震わせながらそう言った。
「ちっ、 第1なんで冒険者がこいつらなんか庇うんだよ! お前らは俺らの味方じゃねえのかよ!」
こいつは頭がおかしいのか?
「貴様らを助ける道理はない、 俺は困ってる人のために力を使いたい。」
「ふざんけなよ、 ネームレスどもの方が俺らより大切だってのかよ!」
ネームレス、 知らないワードだ。
名無し、 ってことか?
だがこれだけは分かる、 これは差別用語だ。
「お前らが言うネームレスとはなんだ、 この方たちがお前らに何をした。」
そこにいる俺以外が固まった。
「てめぇ、 ネームレスも知らねえのかよ! この国の誰もが知ってるんだよ! こいつらはな、 ネームレスどもは魔人族なんだよ! 存在そのものが罪なんだ!」
魔人? どうやらこの世界に魔物、人間、魔人少なくてもこの3種の生物がいるってことか。
確かにだいたいの作品では魔物や魔人ってのは悪い存在として描かれる事が主だ。
だが彼らはそういう風には見えない、 仮に猫を被ってるとしてもあそこまでのことをされて、 それでもなお耐えている。
俺はその辛さが誰よりもわかってるつもりだ。
俺には彼らはそんな悪い存在には見えない。
人間と同じだ、 中にはいい奴もいる。
だが、 悪いやつもいるんだ。
仮に1部の魔人に悪い奴がいてそのせいでそんなこと言われてるのだとしても、 全てを否定するのは違う。
してはいけないし、 そんな権利なんて誰にもないのだ。
「お前はそれだけの事で彼らを傷つけるのか! 見下げ果てたなお前の方が俺には大罪人に見えるな!」
「こ、 こいつ頭のネジ壊れてやがる! 興が醒めたわ、 おい行くぞおめーら。」
そう言うと奴らはそうそうに立ち去って行った。
「おい、 あんたら大丈夫か?」
俺は未だに震えながら頭を下げてる男とその子供らしき少年に声をかけた。
子供は未だに泣き、 男は謝り続けていた。
「お、 おいそんな怖がらなくていいから。 俺はあんたらに危害を加える気は無いよ。」
俺が少し声色を優しくして、 そう伝えると男は涙で濡らした顔をゆっくり上げた。
「ほ、 ほんとですか? 私たちは皆さんが言うネームレスなのですよ? 存在が罪なのです。」
男は今にも泣き出しそうな声で微かにそう言った。
「俺はこの世界のことが分からない、 なんで魔人ってだけでそんな扱いを受けてるのかも知らないし、分からない。 だけどな理不尽に相手を傷つけるようなやつは1番嫌いなんだ。 それにあんたらはそんな風には見えなかったしな。 その子はあんたの子供か?」
「は、 はひ!」
男は涙を流しながらそう言った。
「ぼうや、 怖かっただろうね。 これをあげよう。」
俺は食糧が入ってる袋から甘そうな果実をあげた。
「あ、 ありがとう!」
子供は今1番の笑顔で笑ってみせた。
「おめえの父ちゃんはカッコイイな。 坊やも父ちゃん見習っていい大人になれよ!」
「うん! 僕パパ大好き!」
そのやり取りを眺めてた男はまたおいおい、と泣き出してしまった。
「あ、、 ありがとうございます! このご恩は忘れませぬ! 私はダリルこの子はコメリといいます! あ、 貴方様のお名前を!」
おっ、 これはあれを言うチャンス到来か!?
「ふっ、 名乗るようなことはしてないさ。 次はこんなことに巻き込まれるなよ? あばよ!」
俺はそう言うと照れた顔を隠すようにしてフードを目深に被りそそくさと目的地へと歩を進めた。
「あ、 ありがとうございます!」
後ろにチラッと視界をやると、 子供は笑顔で手を振り男は深深と頭を下げていた。
柄になく小っ恥ずかしいことをしてしまった。
でも、俺がやったことは間違いではないと思いたい。
「元気でな。」
俺は静かに聞こえないようにそっと呟いた。
……
親子と別れてからしばらく歩いた。
太陽はテッペンに輝いていた。
「太陽も月も普通にあるんだもんな、 案外異世界ってのはパラレルワールドみたいなもんなんかな。」
そんなことを呟いてると、 ぐうーーー、 と腹の虫が鳴き出した。
「お前も泣き虫だな。 よし飯にしよう。」
この辺は他のとこに比べると結界の数が少ないみたいだがまあ大丈夫だろう。
さっさとすまして移動すればいい、 そんなふうに俺は思っていた。
「さあて今日のランチメニューは、 ジャジャーン! 干し肉!」
俺は何かよくわからない肉の干し肉みたいなやつを取り出しかぶりついた。
「うんめええ! 酒飲む人なら酒のつまみにしたいんだろうな。」
しばらく俺が干し肉と格闘してると何やら後ろに気配を感じた。
そーと後ろを見るとそこには、 1匹の犬みたいな奴がヨダレを垂らして俺に忍び寄ってきた。
これはやばいか? と思ったのだが何故だかそいつからは敵意、 と言うのだろうか危機感を感じなかった。
例えるなら飼い犬が餌をせがみに主人の所に歩み寄ってるような感覚だ。
「おまえ、 お腹すいてるのか?」
俺がそう言うとそいつは尻尾をブンブン、 と振って見せた。
俺は干し肉を1枚そいつにあげることにした。
そいつは干し肉を何回か鼻で嗅ぐと、 大丈夫だと安心したのかもしゃもしゃ食べ始めた。
「まるで家で飼ってた犬みたいだな。」
俺が家で飼ってる柴犬を思い出していた。
そう言えば少し似てるような気もする。
「じゃあな、 の垂れ死ぬなよ。」
俺はそう言って荷物をまとめて旅を再開することにした。
犬は尻尾を振りながら干し肉を食べていた。
その場を離れつつ犬の方を見るとまだ尻尾を振っている。
何故かそれが俺にはお見送りされてるような不思議な感覚に包まれた。
俺は懐かしいようなそんな感覚に包まれながらそこを後にした。
……
あれからどれくらい歩いただろうか、 1、2時間は歩いたと思う。
だいぶこの辺も人通りが少ない気がするな。
そんなことを思いながら当たりを見回してると。
「はぁはぁ、 誰か! 助けてください! 誰か!」
突然そう叫びながら 、1人の女の子が林から飛び出してきた。
これは野盗の罠か?? いやそれにしては妙だな。
「なんかあったのか?」
俺はその子に近寄った。
「はっ!? あ、 あのそのお願いします! 助けてください!」
彼女は俺を見て震えながら恐怖に顔を歪ませていた。
この子も魔人族なのか?
「助けるって、 どうした?」
「ひ、 姫が魔物に! お願いです! 助けて!」
姫? 魔物? どうやら事態は急を要するみたいだ。
「あいわかった! 早く案内してくれ。」
彼女は少し安堵したのか、 落ち着きを取り戻しつつあった。
「こちらです! お願いします!」
俺は彼女の後を追うことにした。
林の中をしばらく駆けていくと、 少し行った先に女の子が変な化け物と向かい合っていた。
「姫様! 助けを呼んできました!」
「マリー!? 来てはダメ、 逃げてって言ったのに!」
姫と呼ばれた少女はそう叫んでいた。
今にも泣きそうな顔、 声で。
「そんなことは出来ません! 旅の方お願いします! 助けてください! 姫様を!」
マリーと呼ばれた彼女は泣きながら俺に懇願していた。
「逃げて! マリー! 人間が私たちを助けるわけがないの!」
やはりそうか彼女らも魔人なんだな
「悪いけど俺は困った人をそのままにはできない質でね。 助けれるかどうかは分からないけど君らが逃げる時間は稼ごう!」
とは言ったものの、 あんな図体のバケモンに勝てるのか?
俺の2倍はあるぞ。
だがここで俺がやらなければ2人は間違いなく死ぬ!
「ブヒヒィ、 なんだ人間風情が? この俺様ピグロ様とやろうってのかあ? ぶっひっひっひっ! 良いだろう! お前から殺してやるううう! ぶひー!」
ブヒブヒ言いながらやつは俺の方を向いた。
「今のうちに姫さんを!」
俺はそう言うと闇霧を鞘から抜いた。
鞘から解き放たれた闇霧はいっそう鈍い光を放った。
「ぶひぃ? なんだその剣は。 そんなおもちゃでピグロ様に勝てるて思ってるのかあああ!」
そう言い放つと共にやつは俺に突撃してきた。
「は、 早い! あの図体でそのスピード、 バケモノめ!」
やつは俺めがけマチェーテのようなものを上から振り下ろした。
─ズドォォォン─
静かな木々の中にやつの振り下ろした剣の発した音が鳴り響く。
「なんて言う威力だ。 あんなの喰らえば一溜りも……」
やつの振り下ろした一撃は地面を僅かに割いていた。
間一髪で避けれて幸いだった。
俺は2人をチラと見る。
2人は身を固めながらブルブルと震えていた。
くそっ、 なぜ逃げない! 腰でも抜かしたか?
これは負けるわけにはいかなくなってしまった。
だがどうすればいい、 俺は剣の達人でもなければ勇者でもない。
ただの人間なのに! どうすれば助けれる!
様々な考えが頭をよぎる。
もはや冷静ではなかった。
その時、
「聞こえるか、 肥太よ。 わしの声が聞こえるか?」
誰だ、 俺の頭に話しかけてくるのは!
「ふっ、 驚いておるなワシじゃよ闇霧じゃ。 うぬが付けてくれた名、 気に入っておる。」
闇霧だと! だが何故刀が俺に??
そうだ聞いたことがある、 物には魂が宿ることがあると。
付喪神と言ったか、 まさかそういう事なのか?
「今は時間が無いのでな、 ワシがうぬに力を貸す。 うぬは身を任すが良い。」
なんだ、 何をすると言うんだ? だが今は信じるしかない!
俺は深く息を吐き、 1度大きく息を吸った。
「ぶひぃ? 剣をしまったあ? 何を考えている。 ぶひひ今更恐れをなしたかあ? だが遅い!」
そう言うとやつ再び剣を構え突撃してきた。
「ふぅ、 行くよ闇霧」
「やつの鼻柱折ってやろうぞ!」
俺は1度鞘に納めた闇霧をしっかり握り直した。
息を整え腰を深く落とす。
そしてやつを睨みつける。
「剣技、 桜の一雫」
そう囁くと同時に闇霧は鞘から解き放たれた。
─ズバッ──ドサッ─
「ぐぎゃあああああああ、 お、 俺様のう、 腕がああああああああぁぁぁかかかかかかかああああ!」
何が切れた感触と、 共に何かが落ちた音がした。
そしてすぐにやつの悲鳴があがった。
やつを見ると剣を構えていた腕が綺麗に切り落ちていたのだ。
「これは俺がやったのか、 俺が……」
いくら相手がバケモノで、 殺意を持っていたとはいえ多少心苦しかった。
「油断するでない、 くるぞ、」
闇霧が言う。
「お、 おのれえ、 人間風情が! 殺す殺す殺す殺す殺す! 生きては返さん!!!」
やつはもうひとつの腕で剣を拾い俺に剣先を向けた。
「ま、 まだやるのかよ」
俺がたじろいでいるとやつは先程までの動きの倍以上の早さで俺に襲いかかった。
避けきれない! 早すぎる。
まさかこんな力を残していたとは。
「ワシを使って避けれない攻撃は防ぐんじゃ!」
「しかしそれでは!」
「構わん、 隙を見つけてやつに引導を渡すのじゃ!」
やつはもはや、 俺を殺すことに執着していた。
ただただ剣を振り回し襲ってきた。
─ブンブン、 カキン─
避けきれない攻撃は闇霧でいなした。
だが刀をこんな使い方すれば、 だが隙がなかなかに見つからなかった。
「ぶおおおおぉ!!! 殺してやるう!、 しねねねえええええ!」
やつの勢いは止まらぬどころか増していった。
そして、
─カキン、 パキン!─
ついにやつの猛攻に耐えかねた闇霧が折れてしまった。
─グサッ─
そのままいなしきれない攻撃が俺を貫いた。
「ぐはぁ! い、 い、 ……」
痛い痛すぎる。
声が出せないほどに痛い。
「ぶひぃぶひぃぶひぃ、 ざ、 ざまあねえぜ! 人間風情がこのピグロ様に歯向かうからこうなるんだ! ぶひぃぶひぃ! 次はあの2人をなぶり殺してやる!」
そう言ってやつは未だに震えながら泣いてる2人に目をやった。
「そう、 は、 させるか 、 よ」
俺は力を振り絞った。
絶対に命に変えても2人を助ける。
俺が誰かの役に立てるなら俺は!
俺は折れた闇霧と、 咄嗟に掴んでいた闇霧の破片をやつ目掛けて思いっきり突き刺した。
「ぶっ ぶひいぃいいぃい! いでええええよおおおお! おのれえええ! くそぉおおおぉ!」
やつは俺を投げ飛ばした。
「がっ! はぁ!」
もうここまでか。 視界がハッキリしねえ。
「すまんのお、 うぬの力になれなんだ。 じゃがうぬはようやった。 わしは短い間だがうぬと入れてよかった。空 肥太よ、 いやカランコエよ! うぬの行先を見届け、 たかっ……」
闇霧の声も聞こえなくなっていた。
「ぶひぃひひひ、 まずはお前をいたぶってゆっくりじっくり殺してやるう!」
奴がどしりどしりと、 にじり寄ってくる。
もうダメだ、 そう覚悟した時。
─ワォーーーン─
犬の遠吠えが、 どこからか聞こえた。
微かに見える視界をくまなく見渡してみた。
そこには、 少し前に干し肉をあげたあの犬が闇霧をくわえて凛々しく立っていた。
「お、 お前、 ここにいてはダメだ。 に、 げろ……」
これ以上は口にすることが出来なかった。
こうして意識を保ってられるのもギリギリであった。
犬は俺を見てから尻尾を1振りすると、 もう一度雄叫びをあげ、 ピグロに突撃した。
咄嗟の出来事にたじろいだピグロはその素早い閃光にただ見つめることしか出来なかった。
「ぶ、 ぶひ、 こ、 このピグロ様が、。 こんな犬ころにいぃ? ぐ、 ぐは、ぶはああああ!」
やつは犬に胸を突き刺され、 悶え苦しみ息絶えた。
「お……を……けて……くれ……のか? あり……と……」
犬は俺の顔や手を舐めていた。
そしてあの二人の泣き声や、 何やら話し声みたいなのを最後に俺は意識が無くなった。
「ありがとう、 闇霧、 犬。 助けてくれて。 そうだ犬ってのは不憫だな。 定吉って呼ぼう。 飼ってる犬と同じ名前だけどきっと気に入るよな。」
俺は次にあった時はそう呼ぼうと決意した。
その次があるかは分からなかったが。
…………
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