14人が本棚に入れています
本棚に追加
「親方、上もやるのか?」
片腕で壁に張り付いたまま3階を示し、地上に目を向けるべく振り向いた時――上がる土埃が視界に入った。あれは――?
「いや……大丈夫だろう。降りて、裏口の補強に回ってくれ!」
まだかなり遠いが、時折赤い閃光が見える。銃を使っている……ということは。
「おい! ヴィル、どうした?!」
「ヤバい! こっちに向かって来てる!」
「――え?」
背中から総毛立つのを感じた。閃光は頻発し、土煙がみるみる広がり、地平線が横一杯蠢いている。一体、どれだけの規模なのか。しかも、段々と近づいて来ている。戦いが押されているのだ。
「だ、ダメだっ! 皆、中に入れぇっ!」
作業はまだ終わっていないが、とても間に合わない。
「ヴィル! お前は裏の人達を誘導しろ! ここは、最後に俺が閉める!」
いつの間にか、親父がすぐ側にいた。外壁を上って、近づきつつある災禍を確認したようだ。命じられ、弾かれるようにそのまま壁を上り、4階の屋根を越える。中庭側は前庭より暗いが、作業をしている辺りだけ松明が見えた。壁を伝い降りるが、面倒になったので3階から飛び降りた。ザザーッと派手な音が立ち、枯葉が舞い上がった。
「な、なんだ、ヴィルか!」
「おいっ! もうそこまで怪物が来ている! 中に入ってくれ!」
俺の登場に腰を抜かさんばかりに驚いていた人々だったが、次の瞬間、我先にと裏口に駆けて行った。
レフトウィングを見上げると、4階の端の窓が明るい。公爵達が籠っているのだろう。
一息吐くと、再び壁を上った。屋根を越えると、館の正面が飛び込んできた。
「嘘だろ……」
最初のコメントを投稿しよう!