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「問題は……まだあります」
エルマッハ隊長は、沈痛に染まった瞳で、改めて一同を見渡した。
「敵は、異形に変化したとはいえ、元は既知の村人です。兵の中には、身内の首を跳ね、精神的に限界の者もおります」
それが軍人の使命というには、余りにも過酷だ。万一助かるのであれば、元に戻す方法さえあるのなら――やるせない思いを抱えながら、己の太刀で命を断たねばならないのだ。
「公爵」
沈黙を破ったのは、執事のコーネンだ。長らく公爵家に仕えてきた貴族の出で、公爵以外に俺達の事情を知る唯一の存在だ。
「本家に使いを走らせていますが、この分では応援は望めないでしょう」
元々ランスト公爵家とは遠縁にあるそうで、コーネン執事は言いにくいことでもズバリと言って退ける。
「脱出のご決断を」
「それはならん」
結論が読めたらしく、双方の声が重なった。
「斯様な辺境の地に隔離されたとはいえ、王家の一端という誇りはある」
「左様な誇りなど、本家には意味の無いこと。今は一先ず、この地を離れ、形勢を建て直しましょう」
「村の外が安全だという保証はあるのか?」
唐突にデサロが口を挟む。張り詰めた空気に水を注した格好だ。
「保証!」
ハッ、と嘲る調子で言い放ち、コーネン執事は、机越しの向かいに立つ20歳は年下の若造を一瞥した。
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