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「……積み荷を見たかね?」
「いいえ、滅相もない!」
男達は2人して、大きく頭を振った。
ランスト公爵は毎月、領地の外にペケルを走らせる。その理由は、公に語られることはない。何やら秘密の取引を行っているのだ――と、もっぱらの噂だ。
「そうか……賢明だったな」
駄目だ。脈が触れない。
「ミゲル、もういい。残念だが、事切れている」
瞼の下の瞳に灯りを近付けるも、開いた瞳孔に反応がない。
「ああ……そんな」
男達は肩を落とした。
「死亡診断書を書いておくから、一先ず公爵様に知らせてくれるかね」
「分かりました」
2人は揃って立ち上がる。彼らを見送りにドアに向かった、その時――。
「ぎゃああああ?!」
診察室の奥から、酷い叫び声が響いた。
「助けて!! 先生、助けてぇー!!」
私達が慌てて駆け戻ると――ペケルに右腕を噛み付かれたミゲルが、真っ青になって泣きわめいている。
「な、何だ?!」
「ミゲル!」
「ペケルさん!!」
一瞬怯んだが、すぐに男達がペケルを引き剥がしにかかった。が――。
ぶちぶちぶちぶちっ
「ぅぎゃああああぁっ!!」
ミゲルの腕が肩から喰いちぎられた。上半身裸のペケルは、鮮血滴る少年の腕をバリボリと貪る。白眼を剥き、口から泡を吹いたミゲルが、ズルリと床に崩れた。辺りは迸る彼の体液で、みるみる朱に染まっていく。
「……だ、駄目だ! 2人とも離れろ!!」
土気色の、死人の肌のまま、ペケルは獣の如く、生肉を平らげた。そして白濁した狂気の目が、手近にいたベルグを捕らえた。
「ヒッ……」
「逃げろぉっ!!」
叫びながら、果敢にもカドレーは、振り上げた椅子でペケルの頭を殴り付けた。木片が飛び散り、グキャッと首の骨が折れた音がして、診療台の向こうにペケルが転がり落ちた。
「……やったのか」
静寂が戻り、椅子の残骸を握り締めた手をカドレーが下ろした時。
「――ぅぐるる……」
「2人とも、逃げろ!」
唸り声に叫んだが、遅かった。とんでもない素早さで、飛びかかったペケルが、カドレーの長身を床に押し倒した。
「ぐあーーっ!?」
引き剥がす間もなく、喉が、ペケルに喰い破られた。再び鮮血が天井まで飛び散る。カドレーは長い手足をバタつかせて抵抗を見せたものの、やがて痙攣に変わった。
覆い被さったペケルは、ぐちゃぐちゃ音を立てながら、なおもカドレーを喰らっている。
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