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「……ぁ……ひっ……!」
ゆっくりと後退りかけたベルグだったが――数歩動いたところで、固まった。
「ぁ……あっ……離せ……」
ミゲルの左手が、ベルグの足首を掴んでいた。
「止めろ、ミゲル!」
私は、狼避けの護身用のライフルを構え、白濁した瞳で起き上がった愛弟子の胸を撃った。化け物に堕ちて人を殺める前に、私の手で救いたかった。
銃声が響き、ミゲルの細い身体が弾かれた。足首を掴まれていたベルグも引きずられて、尻餅を付いた。
その騒ぎにペケルが振り向いた。顔も手も、カドレーの血で真っ赤に染まっている。
私は迷わなかった。ギラついた異形の眼差しを消したいと、本能的に感じたのだろう。こちらへ飛びかかってくる前に、もう一度引き金を引いた。
銃声と共に、ペケルの脳が吹き飛び――グシャッと糸の切れた人形さながらに、その場に崩れた。
「はっ、はな……離せっ!」
恐怖で上擦ったベルグの声が繰り返される。
胸を、心臓付近を撃ち抜かれてもなお、ミゲルは死んでいなかった。
握られたままの足首から指を外そうと、ベルグは半狂乱だ。
この化け物は、一体――。
躊躇った私の間隙を突いて、ミゲルがベルグの太股に噛み付いた。
「ぎゃあ! 先生、た、助け――」
倒れたベルグに、もう1つの影が覆い被さった。喉から胸まで喰い荒らされた、カドレーだった。
この化け物は死なない。そればかりか、喰われると仲間になってしまう。恐らく、言葉も通じない。
残りの銃弾は4発。私の腕前は、決して上手くはない。
もし、彼らを倒し損ねたら、診療所に火を放つ。身体が燃え尽きれば、流石に息絶えるだろう。
願わくば、私自身の口から公爵様に、直接ご報告出来れば良いのだが――。
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