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「屋敷の空き部屋を開放してくれ。女、子どもを優先に入れて、窓やドアを塞ぎ、塀の内側にバリケードを……」
「分かってます」
それでも領主としての責任なのか、必至に指示を絞り出そうとするのだが、コーネンに遮られた。
「既に指示は出しております。公爵は、エレイン様とレフトウィングに退避なさってください」
コの字型に構えた館は、執務室がある中央部分、公爵達の居住空間がある左翼部分、そして使用人達が暮らす右翼部分から成り立っている。因みに、俺達の別館は、血塗られた鉤爪という別称がある。
項垂れた公爵の背を抱えるように支え、コーネンは鋭くこちらを一瞥した。
『分かってるな?』
そんな声が聞こえたような気がした。隣で、親父が頭を下げた。訳が分からないまま、俺も腰を折る。
デサロと3人、彼らがレフトウィングに引き上げて行くまで爪先を見詰めた。
「下の作業を手伝うぞ」
完全に足音が消えてから、親父は顔を上げ、俺の背を叩いた。
闇に紛れて館を離れるまで、まだ間がある。人並み外れた馬鹿力の俺達は、土木作業では大いに役立つ筈だ。
ー*ー*ー*ー
階下では、衛兵の指揮の下、使用人と避難してきた村人を交えた多くの人々が、忙しなく働いていた。
屋内では籠城に備えた物の移動、屋外では怪物の侵入を防ぐための砦造りや窓の板張りが行われている。
前庭に出ると、辺りは薄暗く、塀の内側には、即席のタイマツが等間隔に灯されていた。見上げた空は、不穏な黒い雲に覆われ、人々の不安な気持ちをじりじりと弄ぶかのようだ。
「ジャレン! ちょうど良かった、あの丸太を木組みに刺してくれるか!」
見知った顔の衛兵の1人が、親父に向かって手を振っている。
「ああ。お安い御用だ」
高さ3m近くある、切り出されたばかりの大木を軽々抱え、土台として組まれた木柵を繋げるように、互いの隙間を潜らせて、巨大なバリケードを築いた。
近くの村人達から「おお!」という驚愕と歓喜の入り交じった声が上がる。
「ヴィル、2階を手伝ってくれ!」
大工のミルトンが窓枠に板を打ち付けている。俺は館の石壁に爪を立てて上ると、2階の窓枠を次々に塞いで行った。
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