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俺と庵は、ため息をもらして視線を交わしあった。
「どうする、庵」
「とりあえず二人に電話するぞ」
「ああ」
俺はうなずいて菫に、庵は香花に、それぞれ電話を掛けた……いや、俺たちが電話を取り出そうとした時だ。
広い駅の構内に、何やら電子音が鳴り響いた。俺たちふくめ、周囲の人間がふと天井付近の放送マイクに目をやる。
『え~っ、迷子のお知らせです。高神地区からお越しの庵君と葵君、あなたたちの彼女がお待ちです、いますぐ、駅の総合窓口に迎えに来てくださ~い!……きゃ~言っちゃったよ菫ちゃん、一回やってみたかったんだ、いえいっ♪』
『あ、あの、香花さん、まだマイク入ってますよ……』
『ふえっ⁉ きゃあ~~っ! ”ブツッ”』
「……」
俺と庵がひきつった顔で絶句していると、周囲にざわめきがおこり、人々は微笑ましい顔で再び歩き始めた。
庵がぷるぷると小刻みに震えている。
「香花っ! あのバカめっ!」
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