第一章~菫、転生~

8/24
前へ
/170ページ
次へ
「あっ、皆さん、来ました。私たちの夫たちです!」  香花の一言でいっせいに歓声と拍手が起こる。一体何なのだろうか、これは。  俺が唖然としていると、恐ろしい(たぐい)の笑顔で庵が香花に歩みより、こぶしを静かにあげた。 「きゃっ、な、なによ……てちょっとお」  庵はもう一方の腕で香花を立たせると、口からちょろりとお菓子を出したまま立っている香花のこめかみに、こぶしをぐりぐりと押し付けた。 「おい、香花? お前何してくれてんだ。おお?」 「いたたたたっ、痛いってば、いおり~何するのよ、いたいいたい」 「何言ってんだお前。俺たちを恥ずかしい目に遭わせてくれただけでなく、駅員の皆さんにとんだご迷惑をかけて。おっ、なにか反論はあるか?」 「ひゃう~、だってちょっと迷子放送してみたかったんだもん! ご、ごめんごめん、悪かった、私が悪かったからあ~、ごめんなさい~! あひゃあ! 菫ちゃ~ん助けて~」 「庵と香花ってほんとに愛し合っているのねえ。私たちも負けてないけど」  菫はそう言うと、例の破壊力抜群の笑顔で俺に駆けよって飛びついてきた。 「はうっ!」「ほうっ!」  菫の仕草と笑顔とみてしまった駅員さん数人が、いっしゅん倒れかける。  ああ、菫の犠牲者がまた増えてしまった。 「いた~い! あおい~ちょっと庵を止めてよお! 助けてよ! ふえ~」  俺は思わずため息をついた。まだ今日は始まったばかりだというのに、混沌はすでに最高潮ではないか。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加