エピローグ~それぞれの未来へ~

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 賑やかで心臓に悪かった合格発表から約一週間ご。俺たちは、ついにこの日を迎えていた。  思い思いの服に身を包み、いよいよさいごの登校日だ。 「……今日はみんな早かったな」 「ええ」「そうね」  庵が穏やかにいうと、香花と菫も同じように微笑する。  俺たちよにんは、いつも通り高神公園に集まっていた。 「う~ん、やっぱり菫ちゃんは着物が一番ね」 「えへへ、そうかな。でも、香花だってその着物すっごくかわいいよ」 「ええ~そうかなあ。菫ちゃんに言われると嬉しいわね」  と、女子ふたりはたがいに着物をほめ合っている。  まあ? たしかにかわいいんじゃないか。今日は菫はともかく、香花にまでドキッとしてしまったのだから。これは庵には内緒だ。  ちなみに俺と庵はともに制服だ。うちの高校は、卒業式において着物や袴が許可されているが、例年男子の八割以上は制服だという。  まあ面倒くさいしな。  さて、俺たちに時を止める(すべ)はない。教室で最後の時間を過ごし、旅立ちの時はきた。 「お前ら、ずいぶんと立派になったなああああ! ぐずん」  俺たちがまだ泣いていないなか、廊下に並ぶ段階ですでに感情爆発を起こしている八谷先生。  そして、それにつられる数人の女子と俊平&幸平。 「先生、ここでそうなられては、式のあいだ持ちませんよ」 「いおりいい~っ! そうだよなあ。お前はいつもクラスだけでなく……ぐすん、先生も導いてくれたよな。みんなもありがとうな」  と、懸命に涙をぬぐう八谷先生。  ……ああ、高校の先生が八谷先生で本当に良かった。  俺はその想いを胸にしまい込み、卒業式に臨んだ。  在校生の惜しみない尽力もあり、卒業式はとても良い形で進められた。  旅立つ際によく歌われる歌の合唱により菫、香花、正二は涙腺崩壊。  近くでそれを見せられる俺にも伝染しそうなので、俺はステージに視線を固定して歌う。  しかし……。  うちの高校では、式の終わりにあることをする。お世話になった担任に感謝の言葉を述べる。という、涙腺にたいして破壊力ばつぐんの行為だ。  これは基本クラス委員長の役目だが、それを後ろで聞かされる側もこみ上げるものがある。と、今もつきあいのある先輩は言う。  そしていよいよ俺たち三組の番が回ってきた。  庵は彼なりに考えたであろう感謝の言葉を淡々と、だが思いを込めて伝えている。  うっ、まずい。何を隠そう八谷先生には三年間お世話になったので、庵の言葉と号泣する先生の組み合わせの破壊力はやばい。
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