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「……庵、ずるい! わ、私が先に言う予定だったのに!」
香花はむっとして庵を見上げたが、すぐに庵の手をぎゅっと握りなおした。
「……でも、すっごく嬉しかった! ありがとう」
「やめろよ……恥ずかしいだろ」
なるほど、割と本気で照れている庵はなかなか珍しいな。俺はその思いを、そっと微笑の中に隠すのであった。
俺たちはそれぞれ手をしっかりとつなぎ直し、改めて大切な人と笑顔を交わし合った。
「いいわねえ~、恋って」
「ほほほほ、ほんとねえ、若いって素晴らしい!」
俺たちは、はっとして周囲を見回した。だがもう遅い。ギャラリーたちは一部始終を見ていたようだ。
「ふえっ!? ひゃあ~! は、恥ずかしいよお~」
「お、俺としたことが、周りが見えていなかっただと~!」
駅前の道に、香花と庵の悲鳴が響き渡った。俺と菫は恥ずかしさで動けない。
恋をすると周りが見えなくなるということを、俺たちは身をもって経験したのである。
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