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それから俺たちは再び馬車にゆられ、菫の家を目指していた。
「皆さま、もうまもなく高神住宅地に到着でございます」
葉室さんがそう言ったとき、街灯がいっせいにつき始めた。
春になりつつあるとはいえ、まだ夕方は寒い。
「うう、あおい~寒いよお」
「おい、菫。いきなり抱きつくなよ」
俺と菫のやり取りをみた香花は、早速それに倣った。
この女子二人は、時と場所を考えずこういう事ができるのだ。
今に始まったことではないが、やはり恥ずかしいというのが俺の心境だった。
「皆さま、良いですな。愛というものはやはり素晴らしい」
「葉室さん、ほんと恥ずかしいからそれを声に出さないでください」
「でも嬉しいんでしょ、葵」
「あ、あたりまえだろ」
俺たち一同は、それぞれ愛する人と思わず笑顔を交わした。
ああ、この愛おしいというどうしようもない気持ちを、一体どうすればいいのだろうか。
俺たちの抑えきれぬ思いを乗せて、馬車は住宅地を奥へと進むのだった。
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