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そこはまさに時代が違っていた。
おとぎ話や日本史の資料集なんかに出てきそうな場所である。
「広さは……テニスコートくらいはありそうだよな」
庵のいうとおり、いやもしかするとそれ以上かもしれない。
その広大な空間には、四季折々の木々が美しく配置され、また中庭の大きな池には満月が映っている。
そしてその中心部には、木製のテーブルと椅子、それにバーベキュー用の大きなコンロが置かれていた。
「皆さま、どうかなさいましたか? さあこちらへどうぞ」
「そ、そうですね。では失礼して」
俺、兄貴、庵の三人は、辺りを見回しながら葉室さんと香澄の後に続いた。
中庭はきれいな砂利が敷き詰められており、月光に輝く砂たちが歩くたびに音を立てた。
バーベキューコンロのある場所までやってきた俺たちだが、俺は今の条件ではバーベキューが困難であることに気付いた。
「葉室さん、確かにここは幻想的で綺麗ですけど、この暗さじゃバーベキューは無理ではないですか」
「確かに……そうだな」
俺のひとことで庵も暗い夜空を見上げた。
周囲に点在する石灯ろうの優しい明かりだけでは危険であろう。
葉室さんは俺たちにうなずいて見せた。
「さすがは葵さま、庵さまでございますね、そのとおりです。ですがご安心を。今宵のためにしっかりと準備は整えております」
葉室さんが、いつのまにやら取り出した小さなボタンを押すと、中庭が強い明かりに照らし出された。
闇に慣れた目がいっしゅん眩む。
「葉室さん、こ、この光は……」
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