第二章~香花、絶叫~

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 俺が間に入っても二人は依然言い合いを続けている。今の二人に俺は見えてないか……。俺が思わずため息を漏らすと、二人の美女……いや、一人はそう見えるれっきとした男子か。が近づいてきた。香澄と香凛ちゃんだ。二人は何やら信じられないものを見たような顔つきだった。 「ね、ねえ葵さん、あの二人はいつもああなの?」    香澄の一言に香凛ちゃんもうんうんと頷いた。まあ二人が驚くのも分かる。あの二人は人前じゃクールで人望厚い存在だ。それが実は頑固で負けず嫌いで大変だと、自身の眼を持って確認したのだから。 「ああーまあな、負けず嫌いってのもあるけど、あの二人は食べ物が絡むとああなっちまうんだよ」 「な、なるほど……」  二人の美人は苦笑して強引に納得したようだ。そして俺にとってお決まりの形で二人の戦いは決着した。 「あっ、このお肉美味しそう! 二人とも、食べないのなら私がもらっておくね、焦げそうだし」  そう言って、庵と香花の眼前から言い合いの元である大きくて美味しそうな肉をかっさらい、何も無かったかのように食べているのは菫だ。 「ああ~っ! 菫ちゃん、何するのよお~私の運命のお肉が~」 「ん? 運命の……なに? 香花の運命の人は庵でしょ?」  肉を焼く音で聞こえづらく、菫は運命のお肉が運命の人に聞こえたらしい。香花が赤くなっている。 「っ!? た、確かにそうだけどっ! って違う~」  香花の絶叫に七人の巫女さんが好意的にくすくす笑うと、香花はさらに紅くなって思わず座り込んで丸まった。 「きょ、香花ちゃん、大丈夫?」  見かねた香凛ちゃんがそっと香花に寄り添った。優しいな、彼女。  そうかと思えば、今度は菫と香澄が姉弟で肉の取り合いをしているではないか。この絵面(えずら)は俺も初めてだ。この二人も食べ物命か。 「ホラ、ねえ香澄? あっちのほうが大きいと思うな」 「やだよ、僕はこの脂身が少ないのがいいの!」 「いやあ~それは私の~」  俺は思わずその光景に見入ってしまった。菫にこんな一面があったとは。どうやら槐家の美人たちは、脂身の少ない肉が好みのようだ。二人は箸で肉の両端を掴んで引っ張り合っている。
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