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楽しい時間はとぶように流れすぎ、夜八時をまわったころには大量にあった食材もほとんど無くなっていた。
「ぷは~っ、食べた食べた。私はもう大満足よ」
香花が幸せそうな顔でお腹をぽんぽんと叩くと、ほか一同も笑顔でうなずきあった。例外ふたりをのぞいて。
「あれ? みんなもういいの? それじゃあ私たちで残り食べちゃうね」
「みなさん小食なんですね」
俺たちは思わずその例外二人に目をやった。
それは菫と香澄だ。菫については昼間思い知らされたが、まさか姉弟そろって大食いだったとは。
それを初めて目の当たりした兄貴とさくら、そして香凛ちゃんが信じられないという顔で絶句している。
「お、おい葵! 菫ちゃんはいつもああなのか!?」
「いや、俺たちも今日初めて知ったことだ。あまり引かないでくれよ、兄貴」
すると兄貴は、なぜか急にまじめな顔になった。そして俺の両肩をがしっと掴んだ。
突然のことに、俺の全身がびくっとなる。
「な、なんだよ兄貴」
「葵…… なにか勘違いしているようだな、お前は」
「い、いやなにが?」
兄貴があまりにも力強い視線を送ってくるので、俺はすこし慌てた。一体何だというのだろうか。
「いいじゃないか、よく食べる女の子! お前は俺がそんなことで引くと思ったのか? そんなわけないだろう! よく食べる、すなわち元気な証拠だ。それに見ろ、彼女たちのあの幸せそうな顔を。なんてかわいいんだ。葵、菫ちゃんを大切にするんだぞ」
俺は兄貴にじとっとした目線を向け、心の中でため息をついた。
真剣な顔でいったい何を言いだすかと思えば、ただ兄貴の好きなタイプが判明しただけではないか。
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