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葉室さんが優秀すぎるおかげで、男性陣は女性陣よりひとあし早くすべての作業を終えた。
「皆さま、ありがとうございます。さて、すべて滞りなく片づきましたので、女性の皆さまには悪いですが、一足先に湯浴みといきましょう。屋敷の大浴場へご案内いたします」
「「ありがとうございます」」
俺たちは葉室さんの言葉でまいあがった。
屋敷も中庭もこれだけのスケールだ。一体風呂はどのようになっているのだろうか。
俺たちは風呂の支度をすませ、大浴場へ案内された。
「皆さま、こちらでございます。どうぞごゆるりと」
「葉室さんは入らないのですか?」
庵が聞くと、葉室さんは笑顔で首を横にふった。
「いえ、執事である私がお客様とご一緒に湯浴みなど、本来はあり得ない話です。しかし、今回は文字通り無礼講ですので、私もせんえつながらご一緒させていただきます」
「葉室さん……」
「皆さまはお先にどうぞ。私と香澄さまは湯浴みの用意をしてすぐに参りますので」
「分かりました。それではお先に失礼しますね」
俺たちは、香澄と葉室さんが長い廊下を曲がって見えなくなると、改めて目の前にある大浴場の入口前に立った。
だれひとり、少しのあいだ口を開かない。それもそのはず、目の前にあるそれは、どう見ても高名な温泉宿の大浴場ではないか。
やがて、ふいに庵が口を開いた。
「想像はしていたが、うむ、想像以上だな」
「ああ、ここはさしずめ高級旅館か? というか葉室さん……」
「うむ、湯浴みなんだな」
俺たちは改めて苦笑すると、紺色で高級感あふれる『男湯』と書かれたのれんをくぐるのだった。
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