第二章~香花、絶叫~

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「……おお、これは」  のれんをくぐると、庵が感嘆の声をあげ、兄貴が手に持っていた着替えとタオルを落とした。  広大で、まさしく温泉のような脱衣所は、優しいぬくもりを感じられるヒノキでできた空間だった。  穏やかな照明が温かく部屋を照らし、荷物だなも洗面台も大量に設置されている。  全員、入りぐち付近に立ったまま一歩も動かない。  見かねた俺は二人に声をかける。 「兄貴、庵。とりあえず入らねえか」 「う、うむ、そうだな。行きましょう、翠さん」 「そ、そうだね」  俺たちはおどおどしながら歩みを進めた。それから適当な棚に荷物を置いて服を脱ぎ、奥にある浴場へ進む。  そこはまさに温泉だった。  それも銭湯なんてものではなく、立派な天然温泉といった感じだ。  もう「槐温泉」なんて名で温泉旅館を開いても申し分ないレベルではないか。 「……とりあえず、行こうぜ」 「ああ」  俺たちはかけ湯をして体を洗い始めた。木でできた、いかにも旅館らしい椅子に座り、こちらも木でできた桶にお湯を張る。  周囲には湯けむりが立ち上り、実に良い雰囲気だ。  それから俺たちは、一番近くにあった湯に体を浸した。 「ああ……これはいい湯だなあ、葵」 「そうだなあ」  庵より一足先に湯舟に浸かった俺と兄貴は思わず声を上げ、同時に顔をほころばせた。  どうやら間違いなくこれは温泉のようだ。それもまた気持ちいい。
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