15人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おお、これは」
のれんをくぐると、庵が感嘆の声をあげ、兄貴が手に持っていた着替えとタオルを落とした。
広大で、まさしく温泉のような脱衣所は、優しいぬくもりを感じられるヒノキでできた空間だった。
穏やかな照明が温かく部屋を照らし、荷物だなも洗面台も大量に設置されている。
全員、入りぐち付近に立ったまま一歩も動かない。
見かねた俺は二人に声をかける。
「兄貴、庵。とりあえず入らねえか」
「う、うむ、そうだな。行きましょう、翠さん」
「そ、そうだね」
俺たちはおどおどしながら歩みを進めた。それから適当な棚に荷物を置いて服を脱ぎ、奥にある浴場へ進む。
そこはまさに温泉だった。
それも銭湯なんてものではなく、立派な天然温泉といった感じだ。
もう「槐温泉」なんて名で温泉旅館を開いても申し分ないレベルではないか。
「……とりあえず、行こうぜ」
「ああ」
俺たちはかけ湯をして体を洗い始めた。木でできた、いかにも旅館らしい椅子に座り、こちらも木でできた桶にお湯を張る。
周囲には湯けむりが立ち上り、実に良い雰囲気だ。
それから俺たちは、一番近くにあった湯に体を浸した。
「ああ……これはいい湯だなあ、葵」
「そうだなあ」
庵より一足先に湯舟に浸かった俺と兄貴は思わず声を上げ、同時に顔をほころばせた。
どうやら間違いなくこれは温泉のようだ。それもまた気持ちいい。
最初のコメントを投稿しよう!