第二章~香花、絶叫~

27/32
前へ
/170ページ
次へ
 俺はゆっくりと身を休めながら辺りを見回した。  いま入っている湯舟ともう一つ湯舟があり、さらに奥には、露天風呂に通じているであろう扉が見える。目線を正面に戻すと木彫りのみごとな龍がいて、その口からお湯を注いでいた。 「いい湯だな、葵」 「おお、庵か。ほんとにな」  いつのまにか俺の横にきていた庵が、横に座りながらいう。  兄貴ともそうだが、庵と同じ風呂に入るなど何年ぶりだろうか。ずいぶん昔のことのように思える。思っていることは庵も同じようだった。 「……俺たちも、いつのまにか大人になったな」 「……そうだな」  俺たちが思わず笑顔を見せあったとき、湯けむりの中で入口の扉が開く音がした。恐らく葉室さんたちだろう。  立ち上がってそちらへ行こうとしたとき、静寂は突然破られた。  先に気配を察知した兄貴が二人に合流したようだが、なにやら兄貴の叫び声が聞こえてきたのだ。  俺たちがその場に駆けつけると、兄貴は真っ赤な顔で俺に掴みかかる。 「なっ! ど、どうしたんだよ兄貴!」  兄貴はわなわなと手を振るわせながら俺を見つめ、きょとんとしている香澄を指さして叫んだ。 「お、おい葵! なぜだ、香澄ちゃんは女の子だろ!? なぜ、お、おおお男湯に来ているんだ~~っ!」  俺と庵が「はっ?」と言い、葉室さんと香澄が「えっ?」と言う。 「あ、あの、翠様……」  葉室さんがなにか言おうとしたが、兄貴の方が速い。 「葉室さん! どうして、どうしてなんですか!? これも槐一族の特異性の一つなのですか」  そのとき、香澄が無言のまま体に巻いていたタオルをさっと外して見せた。 「ぬわあああああああああああああっ!!」  兄貴の凄まじい絶叫が、槐の屋敷にとどろいた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加