第一章~菫、転生~

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 俺の住む高神住宅地は、その名のとおり高台にある。街の中心部から見れば、なんと百メートルの断崖の上にそびえ立つ。  槐一族初代である槐さんがこの街を治めていたとき、本拠地を断崖の上に作ることで外敵に備えた名残だと、菫は伝え聞くらしい。  その高神住宅地から町へ降りる道は二つ。車両用の公道ともう一つあるのだが、俺たちはもう一つの道を使っていた。  この道には、「高神道」という正式名称があるのだが、俺たちだけではなく、この街にすっかり定着している愛称があった。 「ねえみんな、桜並木通りも本格的に目覚めの準備を始めているわね」 「そうだな、香花」  庵が頭上を仰ぎながらいうと、俺と菫も彼に倣って顔を上げた。  この道は「桜並木通り」の異名通り、住宅地から下に続く道を桜の木が取り囲むように存在する。  春になると大量の桜が一気に開花し、この道には桃色のトンネルが期間限定で現れるのだった。  昔から、この桜のトンネルを通らなければ俺の春は来ない。
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