15人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
時刻は午前十時半。雪華海街西口駅を出発してから十五分が経っていた。
まもなく俺たちを乗せたレトロな四両編成の電車は、この街の中心部、雪華海街中央駅に到着する。
「そう言えば菫ちゃんって、街の中心部に来るのは初めてだったっけ?」
「そうだよ香花。だからとっても楽しみだったんだ」
菫が瞳を輝かせて言ったとき、電車は完全に停車した。
「よし、行くぞ」
庵の掛け声で、俺たちは賑やかな街へ飛び出した。
だが、その直後。
「……おい、庵」
「……なんだ、葵」
「なんであの二人はいつもこうなんだ!」
俺は人ごみの中であるにも関わらず、思わず叫んでしまった。電車を降りて早々、おてんば娘ふたりが見当たらないのである。
今日は休日であり、田舎町とはいえここは街の中心部だ。
駅は人がごった返している。俺と庵は、あらかじめ電車を降りる前に、俺たちについてくるよう言い聞かせていたのに、雑踏を抜けて振り返ってみると、二人の姿はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!