伯父との学習

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 訳しても意味がわからない荒唐無稽なギリシャ神話のストーリーは僕を睡魔へといざなった。どうやらゼウスが全能の神らしいことはわかった。半分寝ながら英文を読んで無茶苦茶な日本語で訳す。あまりにひどい訳に伯父から嫌味が飛ぶ。頭の中は「早く終わらないかな」の時間が過ぎていく。  神話を訳していく中で、 「そもそも清水直人とはなんぞや?」これがカオル伯父の口癖だ。 「なんぞやといわれても・・・」 「いや考えるんだ、清水直人とはなんぞや?」  いつもこんな禅問答を繰り返し。  僕の楽しみは奥さんの久美さんが出してくれるお茶と何某かのケーキだった。陰鬱な雰囲気のカンフル剤となってくれた。お茶の時間にはカオル伯父は機嫌を直しパソコンのスペックを自慢すべくその日のキーワードについてキーボードに打ち込んでいく。  もう一つの楽しみは帰宅であった。帰りはバスでなくカオル伯父が成城学園前駅まで車で送ってくれることだった。カオル伯父のもう1つの趣味は車であった。それも車体の軽さの割には猛烈な馬力を持つセダンが好きなのだ。最初のころはサニ―・ルプリ。そのあと買い換えてシルビアのQs。  僕を成城学園前まで送ることに伯父は、ささやかな趣味を満喫しているようであった。途中の国道20号の信号が青に連なるとカオル伯父はここでは書けないくらいのスピードで加速を楽しむ。体にGがかかり思わず「うっぷ」となるのだが気分は僕も爽快であった。  カオル伯父の趣味は車、パソコンにとどまらない。オ―ディオだ。アンプ、レコードデッキ、CDデッキ、スピーカーどれも単品で好きなものを組み合わせていた。なかでもJBLの2ウェイスピーカーはウン十万円はする自慢のものだ。ヴァイオリンが好きでサラサーテのツェゴイネルワイゼンは聞き飽きるくらいに毎回聞かされた。
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