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チンプンカンプンのギリシャ神話のストーリーは僕を再三にわたって苦しめたが、おかげで学校での英語には一切困らなかった。むしろ国語の語彙力が足りないという始末になった。カオル伯父は僕に「メディチ家の人々」を読むように、と日本語版を貸してくれた。
これもまた難解な本で僕の読解脳を苦しめた。
それでも僕はカオル伯父の家に通い続けた。毎週土曜日の午後。毎回の難題にも僕は耐え続けた。そのたびに僕の読解力のなさ、語彙の少なさに、嫌味を言われながら僕は辛抱した。カオル伯父には勉強を超えた何かを教わっている気になれたからだと思う。
相変わらず、
「清水直人、お前はなんぞや?」「清水直人、お前は何のために生きているのか?」
訊かれるたびに僕は返答に詰まった。
嬉しかったのはときどき日曜日、車を飛ばして秋葉原の中古オーディオ店に行ってスピーカーや当時最新鋭だったCDプレーヤーなどを買ってくれたことだ。そんなに高価ではなかったけれど僕の好きなロックを自宅のオーディオ機器で聞くことは僕の最高の趣味にもなった。
高校生になっても僕はカオル伯父のもとへ通い続けた。バンド活動やデートがあっても土曜日には通い続けた。不思議と否が応でも足はカオル伯父のもとへ向かった。
気がつけば6年間、中高と通っていたことになる。高3のころにはさすがに僕の頭脳も明晰になってきて伯父を打ち負かすほどの意訳ができるようになっていた。
「もう教えることは教えた。受験に集中しなさい」
そういって伯父は僕の受験を応援してくれた。
僕は無事、カオル伯父と同じ大学に合格できた。
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