大人になって

2/3
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 それから数日のこと、一通の手紙が届いた。カオル伯父からのものだった。  僕は何かを感じ取りながら封を切った。 拝啓      忙しくしているようですね、何よりです。まずはあの6年間      、僕のもとに来てくれてありがとう。初めて久我山に来た中1      の君はまだあどけない子供でしたね。      そして立派に成長していく姿を見られたのも幸せでした。      今、私は事情があって家族を離れ1人暮らしをしております。      一度でも君に会いたかったが忙しいようだね。      直人君、僕が君を中高と土曜に誘ったのには訳があります。      実は、僕は今の家族の前に結婚をしていたことがあります。      僕がまだ沖縄で教鞭をとっていたころの話です。      この話は今まで君には話さなかったし、お母さんにも黙って      おくよう僕から頼んだのです。      沖縄で、僕は美咲という女性と結婚し、そして優という      1人息子ができました。      しかし結婚生活が上手くいかず美咲の精神も病んでしまった      ため離婚になりました。      優、それはそれは可愛い男の子でした。      その優は元気でいれば君と同じ年に生まれた子なのです。      僕は毎日、優のことを思って生きてきました。そんな時、      君が優と同じ中学生になった、と聞いていてもたっても      いられなくなり半ば贖罪のつもりで土曜の午後、優の父      親になったつもりで君をここへ呼び寄せたのであります。      いってみれば僕のわがままとも言えるでしょう。      それでも君は雨の日や雪の日も土曜日に顔を出してくれた。      その2時間ほどの時間で6年間僕はきみに単に英語の勉強      だけでなくありったけの知識や知恵を流しこんだつもりで      す。父親として、できる限りのことを。      そして私の血が流れる君は見事にそれを吸収し成長して      いってくれた。嬉しい限りです。      君にとっては迷惑だったかもしれませんね。     どうか今になって君に来てもらった動機を話すことになった     ことをお許しください。     今度、会ったら一緒に酒でも酌み交わしながら昔話をしましょう。     それではまた。                                        敬具                        カオルより  僕は半分ポカーンとなってその手紙を置いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!